第17話
斉藤不動産の中でも、灯里が個人的に所持する物件には、かなり趣味に走ったものがある。
自宅は『寝るだけの場所』『人を立ち入らせない自分だけの巣』と豪快に割り切っているせいもあるだろう。
誰かを招待するなら、仕事柄、自宅以外のほうが価値がある。
深夜0時、某市の完成前のニュータウンにて。
ここは、太陽光と風力のエネルギーで、夜に生命を灯す庭園だという。
未完成だが見るかと言われ、やってきた。
「ふわああ……」
ユミこと生田夢子は、驚き、魅入られて、感嘆した。
2階の高さから輝いてなだれおちる滝や小川や噴水の水は、水ではなく光ファイバーだ。輝く水にしか見えないし、豪奢な量を誇る。
地面にはランダムな位置に、色を変えながら輝く光のドームが何十基も設置されていて、中には色鮮やかな熱帯魚たちが泳いでいる。本物ではなく動画ではあるが、言われてもわからない。
花畑に、真っ白な綿毛のたんぽぽが一面にあり、それも揺らぎながら発光して、ほんのりとパステルカラーになったりしている。
「あのたんぽぼも光ファイバーよ」
灯里に説明されて、ためいきが止まらない。
樹木に施されたライトアップも、言葉での表現では称賛しきれない。
「神様がいるみたいなところだ……!」
「あら。でも本物の花や噴水よりかなり安上がりだったり、昼間には冴えない見栄えだったりするの。夜に特化してみたのよね」
この庭園は、外からはまったく見えないように囲われている。今夜は空も見えているが、いつもはドームで覆って、盗難やいたずらなどの侵入を防止している。
「あ、するとあの木も全部」
「フェイクツリーよ。庭師を雇うより安上がりなの」
この庭園は、イベント時にレンタルされる予定である。散らない桜を花見したり、ビアガーデンを開催したり。あるいは。
光ファイバーがぐるぐる流れる大きな池がある。
その真ん中には円形のステージがあり、ちょっとしたライブができるようになっている。
さらにそのステージには、光輝く巨大な時計が設置されていた。秒針はなく、装飾された黒い分針の長さは2m近い。
「ミステリに使われそうな時計です」
「探偵さんはどんなトリックを考えたの?」
「あたしは秘書ですから、うといんですがね」
明日は休みのユミである。
仕事帰りに、灯里と待ち合わせて、灯里が所有するレストランに食事に行き、事前に誘われていたまま、庭園に連れられてきた。
ダークグレイのロングコート、その下はグレイのパンツスーツ。若さが輝く肢体に、灯里は目を細める。
「ねえ……」
声がのどにからみ、灯里は一度、つばを飲んだ。
時計を見ていたユミがふりかえり、なあに? という、仔猫のような仕草で灯里を見る。
たまらない気分になり、灯里はひたすらにユミを見つめた。
「透明人間は……あなたなのでしょう……?」
絞り出した灯里の声は甘ったるく震え、表情は恍惚にとろけきっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます