第6話

地味な破裂音は、道弥の右手首から放たれた。

蛍光ライムグリーンの塗料がレディの身体を濡らし、ぽたぽたとしたたる。

女はぼうぜんと、自分の身体を見下ろした。


「痛くはなかったと思うけど……」

道弥が手の甲から見えている発射口を押し込んで、シャツの袖の中に隠しながら、申し訳なさそうに言う。


レディに今度遭遇したら、どうするか、考えた。

裸の女に、至近距離からサバゲー用のペイント弾を撃ち込んだら、かなり痛いだろう。ボールを投げつけても、痛いだろうし、手加減をすれば、彼女の身体能力から、避けられる可能性のほうが高い。

だから、道弥はシャツの中に、自作のウォーターペイントガンを仕込んだのだ。

威力は、ごく弱く。しかし塗料はたっぷりと。

一瞬でタンク内の全部の塗料を発射するため、発射口にキャップをした。ひじのスイッチを入れればキャップがはじけて、全部が噴き出す。


レディは怒ったように、道弥から剥いで着ていたツイードジャケットをたたいた。

「汚れたけど、気にしないで。ああ、きみにあげたことになっているなら、ごめんよ、気に入ってたの?」


すてきな身体に塗料をまとわせているレディは、魅惑的だった。胸の先端も、おへそもすてきだ。おへその下に体毛がないかを確認しようと、道弥は目を細める。

もう帰る、と言いたげにきびすを返したレディは、違和感に動きを止めた。道弥をふりかえる。


「そのペイント、速乾性グルーセメントだから。もう固まってきたでしょ?」

強くべたつきながら、空気に触れて固まる。

「本当は顔も知りたかったけど。こういうシロモノだから、顔にはかけられなかった」

道弥の発言は、先ほど「呼吸をしているか」の質問に、レディが否と答えていれば、顔を狙っていたということだ。


「逃がさない」

道弥は甘く、微笑んだ。


動きにくさをこらえて、レディはジャケットを脱いだ。そして、研究室の真っ白な壁に、自分の身体を押しつける。


(お……おおお…?!)


首から下の前半分だけ、ライムグリーンに染まった女の肉体。

罪深い、豊かな胸が、グニグニッと壁に押しつけられて、大きく変形している。腹部も股間も、ふとももも。壁に押しつけた体と肌をこねるように動いて、しばし。


レディはベリベリと音を立てて、壁から体をはがした。

白い壁には、ライムグリーンの女体のあと。


「は……?」


(なぜ、剥がれた? 人間の肌だろうが物体だろうが、グルーセメントだぞ?)

道弥が次の行動を選びあぐねていると。


レディはツイードのジャケットを拾い、道弥に向かって投げつけた。

視界を数秒奪われた道弥の前には、開かれたドア。

そろえて脱いだ、赤いハイヒール。

気絶した斉藤繁と、知らない女。


本命のレディは、気配も残さず消え失せていた。

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