第七話 冥王、妻に" 聞く "?

 それからも俺は悩んだ……悩み続けた。

 今のコレーへの贈り物に、、を。


 彼女はここ最近、ニッポンでの生活にも慣れ、仕事にも精を出している。

 おまけに、イザナミという異国の友人もできた。

 ひとえに、これは彼女の努力に因るものだ。

 愛する夫として、そのがんばりには必ず報いる! そうでなくては、彼女を愛する資格がない!


 ちょうど現世ではまもなく、『クリスマス』という、報いるのにふさわしいタイミングがやって来る!

 「異神の祭典」ということでこれまでは敬遠していたが、今回ばかりは別だ。

 現世の男女が色めき立つというこの期間、利用しない手はない!

 

 とはいえ、神成さんに言ったように「なにが欲しい?」と聞くのは何かが違う。

 どうせなら、彼女の両の目をいっぱいに開かせてやりたい。

 そんな子供じみた承認欲が、俺にはまだ残っているようだ。

 ここが部下たちのいない極東の地で、本当によかったと思う。


「どう、ハーたん? 今日のスープ、ハーたんの好きなお肉を入れてみたんだけど」


 しかし、何を送れば驚いてくれるだろうか?

 神成さんが別れ際にしてくれた助言を思い出してみよう。


『いっそ奥さんをこっちに呼んで、美味い和食でもごちそうするってのはどうだ?』


 、か。 悪くない。

 いつもは食べられない料理……少し高額な『寿司スシ』なんかどうだろう。

 これまでにない体験に、彼女も驚いてくれるかもしれない。

 しかし、魚介類はあまり食べたことがないし、もしダメだったら……


「冷蔵庫の隅に、ほんの少し余ってたお肉を使ったの。いつもとは違う味になってると思うんだけど」

「肉……」


 ……まあ、魚がダメならそうなるな。

 肉は、どちらかというと俺の好物だ。

 しかし、俺が美味そうに肉を食らう姿を見て、彼女も喜ぶ可能性はある。

 そうなると『スキヤキ』か、あるいは『ヤキニク』か。

 うん。 これなら二人で、いやメルを含めて二人と一匹で楽しめる。

 しかし、彼女をという問題の解決にはならない……一旦保留にしよう。


『あっ、そうそう。 さっきネットで見たんだけど、こうやって余った食材をやりくりできるとカッコイイんだって! フフン、わたし、またしちゃったかも』


 ……そうだ、彼女はしているんだ。

 ならば彼女の更なる成長を促すための品を贈る、というのはどうだろう?


『奥さん、向こうでは何の仕事をしてるんだ? その仕事に関係するものなら、ハズレはしないだろ』


 そう神成さんも言っていた。

 よし、いつものコレーの仕事ぶりを思い出してみよう!


「音声入力? にもだいぶ慣れてきたし」

 彼女専用のヘッドセットマイクか……色とかもカワイイものにこだわるか?


「タイピングはまだまだだけど、コツはつかめそうだし」

 ギリシャ語対応のキーボード、AMMZONアムゾンにはなかったなあ……。


「そのためには、ニッポン語、ニホン語? も勉強した方がいいかもね」

 ニホン語の勉強ならイザナミに……いや、好敵手から教わるのは嫌がるか。


 うーん、この中ならヘッドセットかなあ。

 けれども、という点ではまだ弱い気がする。

 もっとこう……これまで彼女が見たことのないような品はないものか?


「くちゅん! あーもう、寒い!  スープ飲んでるはずなのに……」


 寒い……だったら自分で暖を取れというのだ!

 AMMZONで暖かい「フリース」の上着を買ってやる、と言っても


『着ぶくれするから、ヤダ』


 と言って顔をしかめられたから、まず服は喜ばない。

 かといって……


『身体を動かす? 父様みたいなムキムキになっちゃう。 却下』


 ストレス解消のために、俺が時々やっている「筋トレ」を勧めてもコレだ。

 あとは……


『あー、やっぱり暖房! もっと暖かい暖房が欲しい!』


 無理を言うな! 今で精一杯だと言っただろう!

 暖房と称される器具という器具を、量販店で見て、比べて、厳選した!

 その結果が、このダイニングの状態なのだ!

 これ以上何か一つでも器具を加えれば、ブレーカーが落ちる!

 そうなっては、本末転倒だ!

 そのとき……


「しかたない……メル、おいで」

「はい!」


 突然、コレーの頭がテーブルの下へと消える。

 十数秒後、彼女の頭が戻って来たかと思うと、彼女の膝の上に黒いモフモフ、メルがチョコンと座っていた。


「あー、あったかい……ありがとう、メル」

「こんなことでよろしければ、よろこんでひざにのらせていただきましゅ!」


 膝の上に暖かいものが乗る=暖かい。

 量販店で見た暖房の中に、それに該当するものは……あった。

 ギリシャではついぞ見かけなかった、彼女も驚き、喜ぶ暖房が一つ。


『へぇ、ギリシャってこっち程寒くねえんだ。 だとすると、少し損してるかもな。だってよ、あれの魔力を知らねえんだから』


 日本伝統の暖房器具——『コタツ』の魔力を、よ。

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