ハーレム体質と陽香の作戦変更 後編

 〜引き続き、米永陽香視点〜


 この男は、博君がらみで知り合った。

 博君のことを尊敬し、慕っているかのように見えて、


 恨みを持っていることは分かる。


 けど、相手は星名台学園を背負うエースで主砲。

 そんな神より加護されたような男を、陥れることは絶対にできない。


 フラストレーションを溜めつつ、自分の野球人生もあるのだから、

 博君の背中を追いかけて行かなくてはいけない。


 だからひょっとしたら、気が合うんじゃないかと咄嗟に思った。

 そしてメッセージアプリを送れば、案外早く帰ってきた。

 反応は良好。


 そうよね、まだまだ私は捨てたもんじゃない。

 だって男の子たちが欲しがるものを、私は持っているから。


 晴人君を視野に入れつつ、とりあえずは自分のスクールカーストを守るために盾となるものが、手に入りそう……


「あれ……?」


 自転車を漕ぎながら駅前ショッピングモール付近に着くと、


(あ、嫌だ……)


 古城茉優とその取り巻き、そして晴人君がまだいた。

 すぐに帰れば追いついてしまうのが嫌で、時間差を作ったが、あの子らは歩きで、あたしは自転車だから結局追いついてしまったんだ。


 でも……なんかごちゃごちゃしているなあ。

 話題の中心は古城さん……じゃなくて──晴人君かあ?


「興味ないです。芸能界とか、俺、無理ですからっ」

「いや、あのそこを何とか……」


 芸能界? 晴人君が?──それ、最高に良いと思う。


 普通に国民的男性アイドル、日本を代表する美男子になれると思う。

 あれでモテないのは、運動神経が無いに等しいぐらい鈍いのと、面白いことが言えないのと、映画と歌好きな陰キャなところが前面に出ちゃうから。

 そんなこと「プロ」になってデビューしてしまえば笑い話程度にしかならない。


 ああ、でも……断り切って行っちゃった。

 勿体無い……そういうところあるよね、チャンスにうまく乗れない、みたいな。


 チャンス?……チャンスかあ。


「ああ、手ぶらで帰ったら出張費が無駄だって怒られる、どうしようかあ?」

「さあ、他にこの辺りで情報が何か……」


 困惑しながら相談している瀟洒な服装の二人にあたしは近づく。

 こんなこと、ダメ元でいいじゃん。


「あの……ひょっとして芸能界のスカウトの人ですか?」


 〜米永陽香視点、終了〜


 ※※


 カラオケは……ルーム内はカオスだった。


 芳澤先生も待ち合わせしていて、何と先生込みで女子4人と俺がカラオケ。

 こんな経験始めてだ。

 普通に先生がはっちゃけて俺たち世代の歌を歌いまくる……これかなり稀有じゃない?


 けどまあ、良く考えたら年齢差は6,7歳差ぐらいしかないのだから、そんなものかもしれない。


 茉優が合間、合間でこっそり色んな情報を教えてくれた。


 まず芳澤先生がお手洗いに立った時だった。


 芳澤愛莉よしざわあいり、源氏名は愛菜あいなだった。


 つまり、大学時代にKJグループのキャバクラでキャバ嬢をしていた時期があった。

 その時に他店の、ホストの彼氏と愛人の三角関係トラブルで、茉優のお父さんが間に入って話をつけたらしい。


 打ち合わせで家にも当時の芳澤先生が何度か来て、茉優もそのお店に、開店前にスパイのような役割で出入りしているうちに仲良くなって、キャバ嬢を引退して教師になったと思いきや、まさかの星名台(学園)で再会。


 人間どこでご縁があるか分からないものだから、あんまり人に悪くしてはいけない、というのをお互いに思い知ることとなった。


 でも彼女のおかげで、俺たちがとんでもない昼ドラのワンシーン真っ青な寸劇をしていてもある程度は見逃されているというわけだ。風紀委員の顧問だから。


 さらにはあのスクールカースト最上位クラスの女子2人。勿論これだけが茉優のコネクションではないが、十分に学内の裏情報を上手にキャッチできている理由が分かった。


 ところで、何がカオスかって……


「ねぇ……私ともエッチしてよ。茉優ばっかじゃなくてさ」

「ブッ!」──飲んでいたウーロン茶を噴き出しかけた。


 と、皆がいて、先生がいるのに万里崎さんに迫られる。

 その理由は──


「ええ? もう口ばっかのつまんない男たちに飽きた。そろそろ年単位でゆっくり向き合える彼氏が、とりあえずセフレからでも良いから、欲しいんだよね」


 セフレはともかく……ま、まあ……ごもっともな理由で。


 さらにここで茉優が二点ほど情報を差し込んでくれた。


 万里崎亜胡さんの父親は元プロレスラーで、現在某プロレス団体を自分で運営している。あんな(細い)体をしてギャルっぽい姿だけど、ひとたび体を動かせば同級生とは全く違う、けた外れの身体能力を持っているそうだ。


「亜胡から体力で逃げきろうったって、絶対に無理だからね」


 それはどういう意味なんだろう……

 その時は笑い話のように聞いたが、あとから分かった。

 あれは笑い事じゃなかった。


 それよりも驚きがこっち。もう一つの方――


「まあもうちょっと先……そうね、来年ぐらいになったらさ、瑠華ちゃんの処女奪ってあげてよ。あの先輩、あなたで卒業するって決めてたから」


「──はあああっ??」


 何ですとぉぉ?? 藤野先輩、そうなのぉぉ??


「多分藤野先輩は真面目だから、そういう関係になったらあっさりはしていないと思う。だから今はダメってことで」


 そう言って俺に茉優はウインクをした。


「やめときやめとき、あっしから見たら王子が木にしがみついている蝉に見えるから」


 ……俺、蝉? 小さくてごめんな。

 横から聞きつけた万里崎さんがボロカスに言う。

 藤野先輩は前でマイク持って歌っているからよく分かっていないから良いようなものの……

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