ハーレム体質と陽香の作戦変更 前編
その後は皆で「打ち上げ」と称して、カラオケに行こうとなって、駅前ショッピングモールへと向かっている。
簡単な自己紹介を受けた。
二人のうち、背の高いボブカットの女子は、
女子バレーボール部の3年だからもう引退していた。よってこないだの3-7組の講演は見てくれていない。
(茉優とのキスも初めて見たってことか……)
いずれにせよ、恥ずかしい。
で、不良っぽい青いメッシュの入った短いスカートの女子は、
同じ2年だった。キレイでこの通りのギャルないでたちだから確かに何度も見たことはあった。名前と顔が一致していなかった……この人が万里崎亜胡さんだったんだあ。
どことなく胡蝶蘭が似合いそうな妖艶な美しさを漂わせながらも、笑みや仕草には年相応の可愛らしさが覗いていた。
万里崎さんとは小学校時代からの地元の友達で、昔ならここに長本君の彼女が加わるらしい。
藤野さんとは共通の知人を介して仲良くなったとか。
そこに芳澤先生……なるほど、3-7組を有効利用できるわけが分かった気がした。
ところでこの今日初めて話をする二人の女子、なぜか二人は時々俺の事を──「王子」「王子様」と呼んでくる。
いやいや、そんなキャラじゃないから。
茉優は学校でいる時よりもかなりテンションは高いけど、俺と二人でいる時よりは二段階ぐらい低めのテンション……良く言えば落ち着いていて、いつもの忌憚無く話すあの感じは形を潜めていた。
けど、もう一つ気になることが……演技だよな。多分……?
俺の手を握ったままずっと離してくれないんだ。
色々違和感はありながらも星名唯一の都会、駅前ショッピングモール付近に付いた時だった。
「あの、すみません──」
この地方には不釣り合いなほど瀟洒な身なりをした中年女性と、男性が話しかけてきた。
俺たちは振り向き、立ち止まる。
「私は芸能事務所のレイズプロダクションから来ました、こういうものです。古城さんですよね?」
「──はい」
「前から噂やお顔は何度かお見掛けしていました。芸能関係のお仕事は興味ありませんか?」
「無いです」
即答かい……スカウトの女性、固まってしまっているじゃないか。
芸能界スカウト相手にでも、断り慣れている雰囲気がプンプンしている。
「いや、あのそこを何とか……事務所に一度遊びに来ていただくとか……」
「結構です。私、KJグループの娘ですから、小さいながらもモデル事務所もあるんで」
「あ、それも知っております。けど得意先様が違いますし、扱っている仕事のジャンル、大きさが違います。それに古城さんはそちら(KJプロダクション)からデビューされる噂もないですし……」
「ええ、興味がないんで──それでは」
けんもほろろという言葉を具現化したなと思う。
ちょっと可哀想だけど……さあ、行こうか。茉優に引っ張られるように歩き出したときだった。
「あ、ああ──あの、そこのお兄さん?」スカウトおばさんは死んでいなかった。
「──はい」
茉優に迫った時の倍ぐらい、目をギラギラさせていた。
「お兄さんも芸能界、興味ありません?」
「……は、はあ?」
「うちの親会社が一部上場のA(Aから始まる二枚目俳優さんをたくさん抱えている超大手事務所)ですから、そちらの方に私から紹介してあげれますよ。一度遊びに来てくれませんか?」
え? ええ──? 俺、そんなの無理だってぇ……
俺は視線で茉優に助けを求める。
俺はこういうのあっさり断れる技量を持ち合わせていない。
「あっ! 良いじゃん晴人。デビューしちゃいなよっ」って、茉優、何ニコニコして言ってるの??
「いーや、すっごっ、さすが王子じゃん、やるぅ♪」万里崎さん、冷やかしている場合じゃないよっ。
「嫌だあ、王子様ぁ、遠いところへ行かないで……」藤野さん、色々と意味ありげで情報過多すぎるんですけど。
なぜか茉優は俺の時はスカウトおばさんの味方??
※※
~米永陽香視点~
悔しい……めちゃくちゃ悔しい……
確かにアプローチの仕方は悪かった。
あんなに晴人が強くて、ビシッと言える男の子になっているとは思っていなかった。
前のままの、どうとでもなる晴人を想像していた。
ミスった。分かっていたらあんなアプローチの仕方をしていない。
きっとチャラチャラした態度と強引な姿勢、そして泣き落としでくるから、どうしようって古城茉優に相談したんだろう……
そして古城茉優が来た。
さらにまずいことに、あそこに連れていた二人は、スクールカーストのトップクラス。学内で大きな影響力を誇る女子。そこに人気美人女教師……
暴れても口で立ち向かっても、そして博君の後ろ盾を失った今となっては権力も……いや、あれだけのメンバーを揃えてきたのだからたとえ『博君の権力』という後ろ盾があっても、古城茉優と戦ったら確実に学生生活が不利になる。
だけど──
「悔しい……ううっ……」
諦め難い。また喉の奥がツンとしてくる。
これは演技じゃない。
晴人君は、女が、出口で欲しがるものを持っている人。
でも女は、入り口で欲しがるものと、出口で欲しがるものとは、違っているケースが実は多い。
あたしもそうだった。
でも今すぐは晴人君に、とてもじゃないけど近づけない。
一旦泳がそう。
その間あたしは、一人だったら間違いなく博君の時に得たスクールカーストの威力の反動で吹っ飛ばされてしまう。
今は盾になる男が必要──あの男にメッセージアプリを送ろう。
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