愛の終焉と、別れ。そして新たなる策謀 後編
~引き続き、米永陽香視点~
晴人君……晴人君かあ。晴人君がいたじゃん……
彼は今、学内で噂の人。
あんな美形男子が隠れていたなんて。
星名台に降臨した「ギリシャ神話のアドニス」とまで言われ出している。
多くの女子たちの注目の的。
本当かどうか分からないけど、晴人君の住んでいるマンションにいるバツイチマダムたちも狙っているし、学校の女教師の中にも危ない雰囲気を出している先生がいるとか……
けど本人は鈍感でおぼこいから気がついてないのよね。
今までは目立たない子、あんまり話さない子、鈍臭い子、運動神経の鈍い子……そんなパッとしない印象ばかりが付きまとっていた。
──はっきり言って冴えなかった。
でも、古城茉優さん……あの人が目を付けて、彼を追いかけだした。
あたしは古城さんより先に気が付いていたけどね。
めざといよね。めざといなあ。さすがとしか言いようがない。
でも古城さん、調子が悪いみたい。
晴人君に体で迫っても……逃げられてるんですって。
「プッ……」顔をぐずぐずにして泣きながら、思わず吹き出した。
まあまあまあ、何でもかんでも肉で迫って、良い男子とダメな男子っていると思う。
晴人君は、あたしなら大丈夫。彼は優しいから。
きっと男の子の失恋ソングそのままに生きるような男子だから──それに、
(古城茉優さんが追いかけ回している男を、あたしが容易にゲットする。それイコール、あたしの方が古城さんより、上の女ってことの証明になる)
(そうなれば、別に博君と居なくても、学内での立場はむしろもっと上がるかもしれないじゃん)
このまま、崖を転がり落ちて行きたくない。泣いてもいられない。
アオハルの敗北者になんて絶対になりたくない。
──よし、決まった。
この状況に、仕返ししてやるっ!
※※
「あいつ……メッセージアプリ、既読にならねぇ、まだ起きてるだろうがよぉ……クソォッ」
母親の前で言ったら確実にダメ出しされるような言葉遣い。
一人だから別に良いじゃん……
元々そんなに良い方ではなかったけど、最近、博君たちやその仲間たちとよく一緒に居たから、言葉遣いがどうも荒っぽくなる。
「電話してやろうか……あ、いやいや、待って……落ち着いて」
ムカつくからって、格下の男の子だからって無茶してはいけないよね。
もう時間も時間だし……あたし、焦り過ぎている。
呼吸を整えて、もう一度思考を巡らせる。
まあ、明日、直接会ってキープにかかってもいいしね。
晴人君だから、きっと大丈夫だよ。
〜米永陽香視点、終了〜
※※
「なんだよ、スウィーツゼロって……」
バイト帰りに駅前ショッピングモールの外側にあるコンビニに入って、茉優の件のストレス発散で甘い物でもいくつか買って、コーラでも飲んで映画でも見ましょうと思ったら、まさかのスウィーツの在庫ゼロ。
そんなこともあるかな……こんな地方じゃあ、夜に買い物に来る人も少ないだろうから。
でも俺は諦めきれずに、国道沿いのコンビニまで向かうことにした。
昔から映画を見る時は、何か食べ物と飲み物が欲しくなるんだ。
マンション群を抜けて、宅地造成をしている地域をさらに抜けて、廃れた商店街へと歩みを進める。
ここは潮路商店街と違って、完全に取り残されている。
アーケードなどはなく、ただ両サイドを今歩いている時間とは関係なくほぼ開いている所を見たことが無いシャッターたちがひしめいている。
L字を逆さにしたような木造アパートは、廃墟の一歩手前といった風情だ。
階段の手すりは赤茶色に錆びつき、アスファルトは地中から何かが這い上がってきたかのように隆起している。
唯一、ステンレスの排気筒が生活の気配をかすかに伝えていたが、それすらも過去の遺物のように見えた。
かつてはここにたくさんの人が住んでいて、商店街で仕事をしていたんだろう……
「うん……あれ?」
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