記憶に沁みついた匂いや感触が中心に据えられており、それが時間の不可逆性と密接に絡んでいる点が印象的。とりわけ「ランドセル」「ソーダ玉」「ひぐらし」「台風」など、感覚的な言葉を結節点にしながら、語られざる「わたし」と「きみ」の関係性が、見る者の記憶にも訴えかけてくるような気配を放っている。その上で、あえて少し欲を言うなら、「記憶×感覚」という手法が非常に統一されているぶん、構造的な波やズレ、あるいは意外性のようなものが後半で少し均質に感じられる場面もあるかもしれない(たとえば、⑧や⑨?)