第四部:「血の記憶」と“最強の家族”計画 (プロジェクト・パーフェクション)

第37話:スキー旅行と雪山の密着

学期末が終わり、待ちに待った冬休みが始まった。

学校の喧騒も、テストの地獄も、全てを置き去りにして。

俺たち家族は、いざ、雪山へ出発だ!

俺の心には、これまでの出来事が深く刻まれている。

自身の出生の真実、亡き母の生涯。

そして、「絆の家族(ホーム)」への誓い。

それらが、俺を支える確かな光となっていた。

俺は、自らの「完璧さ」が、

幼い頃の孤独から生まれた願いであり。

同時に家族を守るための力であると。

深く、深く、理解していた。


この日のために、俺は完璧な手配を済ませていた。

旅行代理店と何度も交渉を重ね。

最高の旅館と、最高のゲレンデを予約した。

交通手段の手配から、移動中の軽食の準備まで。

全てが完璧に計画されている。

雪山での安全対策も抜かりない。

万が一の事態に備え、携帯用の救急セットや。

高カロリーの非常食も準備済みだ。

だって、それが俺、悠真の役目だからな!

俺の家族が快適に、そして安全に過ごせるなら。

それが俺にとって、何よりの喜びなんだ。


朝の玄関は、大きな荷物で埋め尽くされていた。

色とりどりのスキーウェアや防寒具が。

山のように積まれている。

「悠真兄様、お荷物はこちらでございます!」

桜が、俺の分のスキー板とブーツまでひょいと持ち上げる。

その怪力っぷりには、いつも驚かされる。

「桜、無理しなくていいからな。重いだろう?」

俺が心配そうに声をかけると、桜は元気いっぱいに。

「いえ!兄様のお荷物を持つのは、妹の務めですから!

お兄ちゃんをサポートするのが、私の喜びなんです!」

そう言って、桜は俺の分のスキー板まで軽々と抱え込んだ。

その真っ直ぐな瞳に、俺は苦笑するしかない。


葵は、俺が用意した手作りのおやつを。

行儀よく口に運びながら、ふわりと微笑んだ。

「悠真さんの準備は、いつだって完璧ですね。

感服いたしました。まさしく職人芸です」

その笑顔に、俺の心臓が少しだけ跳ねた。

彼女の頬は、微かに赤く染まっているようだ。

紗耶は、俺の隣でスマホをいじりながら。

「私、スキーは得意だから。悠真、変なことしたら。

容赦しないからね。あんたの世話は、この私が。

焼いてやるんだから」

と、ぶっきらぼうに言うが、その実。

俺が用意したカイロをこっそりポケットに忍ばせているのを。

俺は見逃さなかった。彼女の照れ隠しな優しさに。

俺は胸が温かくなるのを感じた。

小梅は、すでに雪山に到着した気分で。

「ゆーまお兄ちゃん!早く雪で遊びたい!雪だるま作る!」

と、はしゃいでいる。その元気いっぱいの姿に。

家族全員が笑顔になる。


父さんと理事長は、そんな俺たちを温かい目で見守っていた。

「悠真は本当に頼りになるな。私たちが何もしなくても。

全て完璧にこなしてくれる。まるで魔法使いのようだ」

父さんが満足そうに言う。

理事長も、「ええ、本当に助かりますわ。

でも、たまには悠真さんも甘えてくださっても。

構わないのですよ?一人で抱え込みすぎないでくださいね」

と、俺の頭を優しく撫でた。その手つきに、俺は少し照れてしまう。

理事長の言葉には、俺が抱える孤独を理解しようとするような。

深い優しさが込められているのを感じた。


出発前、理事長は、悠真の父に、少しだけ不安そうな顔で呟いた。

「……この旅行で何も起きなければいいのだけど」

理事長の言葉は、静かな不安をにじませる。

父は、妻の言葉に、不思議そうな顔をした。

「どうしたんだ?何か心配でもあるのか?」

理事長は、かすかに首を振る。

「いいえ…ただ、何となく…冬の山は、時に人を試しますから…」

理事長の心には、悠真の亡き母の過去、

そして自身の使命感が、重くのしかかっていた。

彼女は、悠真の周りに潜む、まだ見えない影の存在を。

予感していたのかもしれない。


スキー場に到着すると、一面の銀世界が俺たちを包み込んだ。

空は澄み渡り、雪が太陽の光を反射してキラキラと輝いている。

「うわぁ!雪だー!」

小梅が歓声を上げて、真っ先に雪の中へ飛び込んでいく。

その小さな体が、雪の中で跳ね回る。

桜も、「兄様!一緒に滑りましょう!」と、目を輝かせている。

彼女の瞳には、雪の輝きが映り込んでいる。

葵は、少し控えめに、「悠真さん、よろしければ、

私にも教えていただけますか?あまり得意ではないのですが…」

と、上目遣いで尋ねてきた。彼女の頬は、雪の冷たさで。

少し赤く染まっているようだ。

紗耶は、「私、スキーは得意だから。悠真、変なことしたら。

容赦しないからね。あんたのインストラクターは、この私なんだから!」

と、俺の腕を掴んだ。その手には、確かな力が込められている。


俺は、それぞれの期待に応えるべく、ゲレンデへと繰り出した。

まずは小梅と雪合戦をして、それから桜と競争し。

葵には丁寧にスキーの基本を教え、紗耶とは上級者コースを滑った。

その間にも、予期せぬ密着騒動が多発する。

リフトで隣に座った紗耶が、不意にバランスを崩して。

俺に寄りかかってきたり、転んだ葵を支えようとして。

抱きしめる形になってしまったり、雪合戦で桜と転がり合ったりと。

ドキドキの連続だった。その度に、俺の心臓は激しく高鳴る。

顔は熱くなるが、誰にも気づかれないように平静を装う。

俺は、完璧な「兄」として振る舞い続けなければならない。


夜は、旅館の温泉で体を温める。もちろん、男女別々の温泉だ。

俺は露天風呂で、雪景色を眺めながら、一日の疲れを癒していた。

温かい湯が、凝り固まった体をゆっくりとほぐしていく。

その時、「悠真先輩!」と、聞き慣れた声が聞こえた。

振り返ると、そこには、なぜか親衛隊の面々が!

彼らは、湯気の中に、神々しい光を放っているように見えた。

「な、なんでここに!?」俺は驚いて声を上げた。

「悠真先輩を、雪山の不純な空気からお守りするために。

我々親衛隊も潜入いたしました!この温泉も、先に清めておきました!」

親衛隊リーダーの白石麗華が、胸を張って答える。

いや、潜入って…。しかも、ここ男子風呂だからな!?

「悠真先輩の純粋な雪の精のようなお肌を汚すものなど。

この麗華が許しません!」

麗華は、湯気で真っ赤になった顔で、そう宣言した。

その瞳は、狂気に満ちている。結局、親衛隊のコミカルな妨害により。

俺はゆっくり温泉に浸かることもできなかった。

彼らは、湯の中でも、悠真の周りを囲んで護衛を続けた。


夜、二段ベッドの部屋で、俺は小梅と、

そして桜と葵と紗耶は別の部屋で寝ることになった。

「ゆーまお兄ちゃん、おやすみー」

小梅がすやすやと眠りにつく。その寝息は、まるで天使のようだ。

俺は、静かになった部屋で、今日の出来事を振り返っていた。

桜の真っ直ぐな瞳、葵の優しい笑顔、紗耶のぶっきらぼうな優しさ。

彼女たちへの想いが、俺の中で少しずつ変化しているのを感じていた。

それは、まだ明確な「恋」とは言えないけれど、確かに。

胸の奥で温かいものが芽生え始めているのを感じた。

俺の心臓は、まだ、ドキドキと高鳴っている。


その頃、メイド隊の面々は、理事長室で密かに、あるものを発見していた。

それは、理事長が隠し持っていた、悠真の亡き母の武術研究ノートだった。

「隊長、これは…」メイドの一人が、震える声で橘凛にノートを差し出す。

橘凛は、ノートを開き、そこに書かれた「武術の極致」という言葉に目を奪われた。

その筆跡は、力強く、しかし流れるように美しい。

そして、そのノートの端に、雪山での不穏な予感を示唆するような走り書きを見つける。

「雪山の気配…警戒せよ…」

「これは…悠真様の亡きお母様が、追求していたもの…」

橘凛は、ノートを握りしめ、悠真の亡き母が追い求めた「武術の極致」と。

それにまつわる危険を追うため、密かに動き出すことを決意した。

彼女の瞳には、強い決意の光が宿る。


夜遅く、俺は一人、旅館の周りを散歩していた。

雪がしんしんと降り積もり、あたりは静寂に包まれている。

澄み切った空気の中、俺の鋭い感覚が、雪面下の微かな異変を察知した。

武術で鍛えられた直感が、俺に警告を発する。

何か、この雪山で、不穏なことが起こっている…?

俺は、静かに周囲を警戒しながら、夜空を見上げた。

満月が、冷たい光を放ち、雪景色を照らしていた。

その光の下で、俺は、これから起こるであろう新たな波乱を予感していた。

家族を守るため、俺は、もっと強くならなければならない。

俺の「完璧」は、まだまだ終わらない。そう、心に誓った。

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