転生したら、勇者が借金まみれだった。

疲れ果てたハムスター

第1話 プロローグ

新子 正(あたらし・ただし)は、死んだ。

 死因は、過労。

 睡眠時間は平均2時間、3日連続のエナジードリンク生活、座ったまま寝落ちして気づけば朝――そのまま、心臓が止まった。

 ――次に意識を取り戻したとき、彼は真っ白な空間にいた。

「ようこそ、新子 正さん」

 どこか合成音のようで、しかし柔らかく響く声が頭上から降ってくる。

「……ここはどこ?」

「あなたは既に死亡しています。そして今、次のステージに立っています」

「は?」

「私は“システム”です。あなたがかつて開発していた、あのゲーム――あの世界に非常によく似た異世界を、長い間監視してきた存在です」

「……待って。俺が作ってた、あの中途半端なやつ? 未完成だぞ?」

「未完成、でしたね。しかし、あなたの発想は非常にユニークでした。魔法の仕様、職業、スキルツリー、信仰システム……全てが、あの世界と驚くほど一致していました。正直、最初は私も混乱しましたよ」

「ちょっと待て、ちょっと待て。つまりどういうことだ?」

「簡単に言うと、“そっくりな異世界が本当に存在していて、あなたがたまたまそれにチューニングを合わせていた”ということです」

「そんなオカルト……」

「ですが、現実です。少なくとも、ここでは」

 新子は混乱していたが、同時に内心ではワクワクしていた。

 まるで、自分のゲームの中に入れるかのような――そんな錯覚に。

「そこで、ご提案があります。よろしければ、あなたにその世界へ“転生”していただきたいのです。もちろん、特典付きで」

「特典……?」

「知識保持。そして、少々ですが、身体の強化処理も」

「……」

 怪しい。非常に怪しい。だが。

(記憶あり、か……)

 クリエイターとしては、自分の世界を歩けるという誘惑に抗えない。

「……わかった。どうせ死んでるし、やってやるよ」

「ありがとうございます。それでは、転生プロセスを開始します」

 足元から柔らかな光が広がっていく。

 その瞬間――

「ちなみに、名前ですが。転生後は“しーちゃん”とでも呼んでください。そっちの方が可愛いでしょう?」

「お、おう……って今さら! ……くそ、やっぱちょっと怪しいだろこの流れ!」

 しかしすでに意識は遠のいていた。

 まるで夢のように、まるでゲームのスタート画面のように。

 こうして、新子 正の“二度目の人生”が始まるのだった。

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