エピローグ わたくしの物語は、わたくしが書くの
王都の夜空は、もう燃えてはいなかった。
冷えた石畳、崩れた噴水、そして魔力の余韻――。
戦いの痕跡は確かにそこにあったけれど、
人々の目に映る“世界”は、少しだけ変わっていた。
「見たか? あの魔導師、信じられない強さだったな……」
「紅と銀の髪、そしてあの瞳……」
「“紅霞の魔女”――いや、“リディア様”って呼ばれてたぞ」
噂が、風に乗って広がっていく。
まるでわたくしの存在を、誰もが“今知ったばかり”みたいに。
ふふ……勝手なものですわね。
でも、ほんの少しだけ、胸の奥が熱くなったのも事実。
人は変わる。世界も変わる。
だったら、わたくし自身だって――
「変わっていいのよね?」
月を見上げながら、小さく呟いた。
◆
「リディア~!」
駆け寄ってきたセリアは、土まみれのドレス姿のまま、わたくしに飛びついてくる。
「すごかった! 王都を救ったって、街の人たちみんな言ってるよ!」
「……言葉だけなら、なんとでも言えるものよ。
けれど、ほんの少しだけ嬉しかったわ。……ありがとう、セリア」
そう言って、彼女の頭を撫でる。
セリアの笑顔は、どこまでも真っ直ぐで――眩しい。
わたくしには、かつて“誰かの純粋な好意”がこんなにも重く感じられる日が来るなんて、想像もしていなかった。
「ふふ、わたしも撫でて~!」
「フィーネは子どもじゃないでしょうに……」
「でもリディア、今のわたしって“大精霊であると同時に、リディアの家族”ってことでしょ? だからほら、愛情をもっと!」
「……はいはい、よしよし」
わたくしの手の中で、二人の“家族”が笑っている。
それだけで、この場所に戻ってきてよかったと思えた。
◆
“かつての令嬢”としての人生は、もうどこにもない。
けれど、“今のわたくし”には――剣も、魔法も、仲間もある。
“恋”と呼べるものは、まだ遠いかもしれないけれど……
もしまた心を奪われるような出会いがあるなら、そのときは――
「わたくしのほうから、書き直してやりますわ。
わたくしの物語は、わたくしが書くのですもの」
誰かのシナリオに従って生きる令嬢は、もうここにはいない。
“悪役”のレッテルも、“断罪”の鎖も。
すべて過去にして、
この手で“自分だけの未来”を紡いでいく。
そう――これは、わたくしが選び直した物語。
リディア・アルヴェインとして、魔導師として、
そしてひとりの“少女”として。
ここからが、“本当の始まり”なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます