飼い犬が逃げてった-ミステリー
飼い犬が逃げてった。あの朝のことは、今でも頭から離れない。
いつものように朝の散歩を終え、玄関のドアを開けた瞬間、チビがスルリと抜け出してしまった。リードはしっかり握っていたはずなのに、なぜか彼は消えたのだ。
「チビ!」何度も呼んだが、返事はない。近所を駆け回ったが、影ひとつ見当たらない。あの元気な柴犬が、まるで地面に吸い込まれたかのように姿を消してしまった。
焦りながら家に戻ると、玄関のマットの下に小さな封筒が挟まっているのを見つけた。封筒には何も書かれておらず、ただ中に入っていた紙にはこう記されていた。
「お前が知らなければならない真実は、もう隠せない」
意味が分からず、背筋が凍った。まさかチビの失踪と関係があるのか?
慌てて部屋を調べると、リビングの壁に掛けてあった古い家族写真の額縁がわずかに傾いていた。手に取ってみると、裏に一枚のメモが隠されている。
そこにはこう書かれていた。
「今夜7時、あの公園に来い。さもなくば、二度と会えないだろう。」
夜7時。指示通りに公園に向かうと、そこには懐かしい顔が待っていた。高校時代の友人、智也だった。
智也は深刻そうに言った。
「君の家族には隠された過去がある。チビが逃げたのは偶然じゃない。お前に伝えなければならないことがある。」
彼が差し出したのは、古びた写真と、チビのリードだった。写真には若い両親と見知らぬ男が写っている。
「その男はお前の本当の父親だ。彼は数年前に突然姿を消し、君の母親はずっと嘘を隠していた。」
智也の話を聞くうちに、家族の秘密が徐々に紐解かれていく。チビは、ただの犬ではなく、過去と今を繋ぐ鍵だったのだ。
帰宅後、部屋をもう一度調べると、チビの首輪の裏側に小さなUSBメモリが隠されているのを見つけた。再生すると、父親がメッセージを残していた。
「真実はお前を苦しめるかもしれない。でも、逃げずに受け止めろ。」
翌日、チビは近所の公園で無事に発見された。彼の迷子札には、新しい住所と連絡先が書かれていた。
全ては計画された謎解きだったのかもしれない。だが、その日から自分の人生が大きく動き出したのは確かだった。
「飼い犬が逃げてった」――それは、単なる偶然ではなく、真実への扉を開くきっかけだったのだ。
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