第13話 焜創と清張の力。
「おら!てめぇらの土地はいただきじゃ!!」
塩沼の集落から北にある三山という隣県から押し寄せてきた河童は次々と塩沼の河童達に襲いかかっていた。
三山の河童の肌は緑色、塩沼の河童はきれいな青色だったが、辺り一面赤く染まっていた。
「水妖術!」
中には妖術で対抗しようとする者もいたが、同じ河童でかつ、相手の方が何故か強力だった為、為す術なくやられていた。
「くそ…!」
「このままじゃ…村が!」
塩沼の河童達は絶望した。こんなに力の差があるとは…それにここまでは村が侵略されてしまう。かつて火山によって追いやられたが今度は別の河童に追いやられる事になりそうだ…
誰もが諦めかけていた。その時だった。
「皆の衆!」
長老が河童達に向かって叫ぶ。
「ここまでよく持ちこたえた!あとはこやつらに任せろ!」長老は、ばっ!と後ろにいた凪と清張の方を振り向く。
「えぇ!?そんな感じ!?」凪はたまらず驚く。清張は黙って村の惨状を見つめている。
「でも…やるしかねぇな!」凪は自分を鼓舞する。
河童たちは長老とその後ろにいる2人と1匹に驚いた。そこには先程笑い飛ばした人間と、ずっと100年近く笑い続けてきたやつがいたからだ。
「あいつ…」1匹の河童は思わず声が漏れる。本当にあの二人が何とかしてくれるのか。それに今まで自分たちは奴を虐げてきた。そんな奴に期待していいのだろうか。
「すまねぇ…」
「頼む!」
声が聞こえた。
半ば理不尽にも感じる願い。しかし、今、村の河童たちは自分に期待を寄せている。希望を。
「…くそ」
清張はそれだけ声に漏らすと、黙って水の妖術の錬成を始めた。
「なんだなんだ?あいつら人じゃないか?何しに来たんだよ!」
三山の河童たちは嘲笑った。自分たちの力は十分誇示できた。戦意もへし折った。それなのにまだ抗ってくるやつがいる。それも人間だ。何故味方をするのかは分からないが縄張りを奪うことを邪魔するやつは容赦しない。そう思って1匹の河童が襲いかかった。
「うぉら!」
飛びかかってくる緑の河童。しかし慌てることなく清張は錬成していた水を伸ばし始める。
「水刀(すいとう)…虎魔!」
水が勢いを増し、鋭く尖る。それはまるで刀のようになっていく。長さは30cmくらいだが、水で出来た刀は水流の力で斬れ味を高めている。
そして、刀を作り上げた刹那、飛びかかってきた河童の腹目掛けて刃を振る。
―――ザシュッ
「がぁ…っ!」
襲いかかって来た河童はいとも簡単にやられてしまった。
それを見ていた塩沼の河童達。
「やれる…やれるぞ…!」
その圧倒的に見える強さを前にして希望を見出す。
「そ…そっちのやつは!」
別の三山の河童が声を上げる、
ほう、目の前であっさりやられた河童を前にして怖気付くが、もう1人の人間に目を向けて襲いかかろうとするやつがいた。
凪は目の前の惨状を見ていた。
誰かが、やられている。
血を流している。
助けてくれと頼まれた。
今、自分には力がある。
そう、拳を握りしめた瞬間、目の前には飛びかかって来る河童がいた。
ブン!
無言で、冷静に、しかし確実に。
鈍い風切音を出しながら素早いフックをぶちかます。
その拳はとても鋭く、怒りを顕に、しかしそれでも冷静に、確実に仕留める。
「がはっ…!」
顔に1発食らった1匹の河童は為す術なく数m吹っ飛び、そのまま土煙を上げて地面に転がった。
「…これが…俺の力…?」
今まで普通の人間をしていた自分にとって考えられないほどの力。そして瞬発力。凪は両手を見つめ、そしてぐっと握ると顔を上げ、眼前に映る複数の「敵」を確認する。
「…清張」
「なんだ?」
「やるぞ。」
「…ああ!」
2人はそう話すと、走りだす。
「くそ…人間どもが…おめえらやっちまえ!!」
一際図体のでかい緑の河童が周りの仲間に叫ぶ。どうやらあいつがリーダーのようだ。
「おおお!!!」
突然強い人間が現れ狼狽えていた河童達が声を上げ、一斉に襲いかかろうとする。
「かかってこいやおらぁ!!」
清張はいきりたち、水刀を構えながら敵陣に突っ込む。
そして次々とさながら時代劇の殺陣のように敵をばったばった斬り倒していく。
「おらぁ!!」
凪は飛び上がると、拳を1匹の河童に振りかざす。
ボコッ!
頭の側面に拳が刺さる。
「うぎゃっ!」
その勢いでそのまま地面にガン!と打たれる。
そのまま殴られた河童はのびる。
すると今度は後ろから別の河童が飛びかかる。
しかし気配を察知してひょいと前に避けると、
「おぉっ」
勢いで前につまづきそうになった河童目掛けて凪はアッパーカットを食らわせる。
「がっ!!」
そのまま上へ飛んで放物線を描きながら数m先まで吹き飛んだ。
「(すげぇ…体がこうしたいって思ったように動く…身体能力が高いってすげぇ)」
凪は自分の体を眺め、自身の能力の向上に喜んでいた。
「皆さんこちらへ!」福郎は長老と一緒に傷を負った河童達を安全なところへ運んでいた。力は無いが飛ぶことが出来るので、物陰を探しては長老が肩を貸して、1匹1匹運んでいた。
「おっとおっと何をしているのかなぁ?」
1匹の青色の河童が不気味な笑みを浮かべながら近づいてくる。塩沼の河童のはずだがどこか様子がおかしい。
「お前は…蔵五郎(くらごろう)…!」長老は睨む。
「よぉ久しぶりだなぁ長老さんよぉ」以前笑みを浮かべながら話す蔵五郎と呼ばれたその河童はかつて村を去った塩沼の河童の1匹だった。
「貴様…三山のやつと手を組んだのか…!?」長老は少しばかり動揺しながらいらだちを見せる。
「手を組んだ?違うね。俺の力を買ってくれたんだよ。お前らが昔、青が青がーなんて言いやがるから俺様の有能さに気づかず、あんなやつを持て囃すからな」蔵五郎は続ける。
「だからこうして復讐に来たのさ。あいつが居ない今、平和にずっと暮らせると思ったら大間違いだぜ。俺は力を身につけた。ずっと!何年も!」
そう話しながら、妖力を溜め始める蔵五郎。他の河童と似たような水の妖術のようだが、紫色の泥水のような禍々しい力を発している。
「…汚い水じゃの」その力をみて皮肉とも取れる感想を呟く長老。
「相変わらずひでえこと言うな長老さんよぉ!!」蔵五郎は怒りながら叫ぶ。
「それに『あの方』から貰った力をそんなひでぇ言い方するなよな!!」ニヤッと笑うと溜めた水を球にして長老にぶつけようと飛ばす。
「闇水(おんすい)、瀉飛(しゃと)!!」
ギュン!と水の球を飛ばす蔵五郎。長老に向かって凄まじい勢いで飛んでいく。
「危ない!!!」
福郎は叫ぶ。しかし自分の体では何も出来ない。このままでは…!
そう思った福郎の頭上を影が素早く動く。
スパッ!
気がつくと水の球は真っ二つに割れていた。そして左右に飛んでいき、
ズドン!!
右奥にあった岩を粉々に砕き、左奥の林の木々が音を立てて倒れる。
「…助かった、すまないな。」長老は影の主に声をかける。
それは敵を倒していく中、危険を察知して飛んできた清張だった。
「ほう…?」蔵五郎は自身の技がいとも簡単に切られたことに怪訝な顔を見せるが、その切った主を見て奇妙に笑みを浮かべ始める。
「お前かあ…青の倅で人間のガキってやつは」
「…てめぇ親父のこと知ってんのか?」清張は聞く。
「あぁ知ってるさ。たくさんな。とてつもなく…」そう言うと凄まじいスピードで清張に詰め寄る。
「とてつもなく…嫌いになるほどにな!!」そう話す蔵五郎の手には清張と同じような水刀があった。高速移動の瞬間に生成したのだろう。
ズシャッ!!
清張はそれを自身の虎魔で受ける。
2つの水の刃が重なる。ひとつは綺麗な水色。もうひとつは禍々しい紫色。
火花にも見える水しぶきが2人の顔を掠める。
清張は歯を食いしばり、刀を受けているが、蔵五郎は高笑いしながら前へ前へ追い詰めていた。
「オラオラどうしたぁ??あいつの息子の癖にこんなもんかよ!あぁそうかぁ?人間の血が入ったからなぁ??汚ねえ人間の血がなぁ!?」馬鹿にしたように笑いながら刃を清張に近づけていく蔵五郎。
「てめぇ…!」清張は静かに激昂する。
「あいつは馬鹿だぜ!村を救うだなんだ言って、不可能なのに火山に突っ込んで死にやがった!」蔵五郎は以前笑っている。
清張は怒りを表情に見せない。刃は軋んでいる。そして震え、まるで本物の刀の鍔迫り合いのようだった。
「お前はあいつの血を引いているが、見た目は人間、そう下等な人間だ!そんなお前は俺に…殺されるべきなんだよ!!」
鍔迫り合いの最中、清張は刀を押す。水刀がパァン!と破裂音をあげ、弾かれる。水が地面に叩きつけるように落ちた音だ。それくらい、互いの刃が衝突していた。
「なっ…!?」
蔵五郎は刀を構えたまま、後ろに仰け反り隙ができる。体勢を整えようと片足を後ろに下げ、水刀を前に構えようとする。そして前方にいる清張を…
「いない…!?」
体勢を整えた時には既に目の前から消えていた。
「どこだ…どこに行きやがった!?」
蔵五郎は周りを見る。後ろ、右、左、また前…
いない。そしてはっと気づいて上空を見る。
「ここだ!」
清張は上空に飛び上がり、刀を振り下ろしていた。その速さはとてつもなく、水を得た魚、いや水を得た河童と言うべきか。
「しまっ…」蔵五郎は刀を上に構えて受け止めようとする。手をかざして頭の前に出そうとするが、間に合わない。
「遅い!!!」
清張は蔵五郎に刀を振り下ろす。
蔵五郎の顔から腰にかけて切り付け、地面に降り立つ。
「がっ…」
傷口から血が溢れる。
そのまま前に倒れ込む蔵五郎。
「…人間も河童もそして親父のことも…てめぇ見てえなやつにバカにされる筋合いはねえよ」
そう話すと、妖術を解き、長老たちの元へ歩き始める清張。
「…助かった、さすがだ。」長老は清張に立ち上がりながら話す。助けてもらった後、先程の2人の戦いから離れて、静かに見ていたようだった。
「お前はやっぱり…青の息子だな。」長老は嬉しそうに話す。
「へへ…」清張は鼻を擦る。そして、
「さて…」そう振り向いて、集落の方を向く清張。
「あいつ…大丈夫か」凪の事を考え、そう言うと、長老に向かって顔を向けないまま話す。
「じじぃ!」
「…なんだ?」
「ありがとな…」
長老は目を見開く。あの清張から礼を言われるとは。
「あいつらのこと…ムカつくけど、それでも親父は…同じ状況でも、助けるんだろうなって。」
「だから…また行ってくるわ」そう話す清張の背中にかつての青の姿を見た長老。
「…すまない…頼んだ!」長老はその背中に村の存亡を託すのだった。
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