第28話 話と植物
「ならば、私の街に来ないか?」
バナードは国王に会え、とは言わなかった。
代わりに自分の街に来ないかと、誘ってきた。
バナードは名も知らない貴族ではない。
エスメリアに人の街を見せるのも、今後の成長に役立つかもしれない。
夢や目標が出来るかもしれない。
それに、エルフが来るのならこの世界の街について知っておいて損は無いだろう。
(それならばいい)
バナードはそれで納得し、ひと仕事終えた顔をした。
オリアナが住処に入ってくると、私の胸の羽毛を小さな両手で引っ張る。
状況がいまいち理解できないが、その目はエスメリアのように輝き、キラキラとしていた。
私がそっと立ち上がると、寝床からエスメリアが、コロリと前転するように転がり落ちた。
「クキュウ~」
"ビックリしたの〜"
その顔は楽しかったのか、柔らかい表情をしていた。
「いたぞー!」
エスメリアの体がビクリと震えると、表情が硬くなる。
カルトンが声を上げエスメリアに駆け寄ろうとしたところをエメリーが前に立って止めた。
「団長は嫌われているので近づかないで貰えますか?」
「え??」
カルトンの動きが止まった。
辛辣だなっと、私の表情が引き攣る。
エスメリアに嫌われている、と言うより、警戒されているのだが。
あえて私はそれを伝えない。
カルトンが停止した状態のままで、エメリーがゆっくりとエスメリアに近づく。
エメリーが離れた代わりに、バナードがカルトンの肩にそっと手を置いた。
エスメリアが私に駆け寄り引っ付いた。
お守りを私に渡してきたのでアイテムボックスに収納しておく。取られると思ってるのか?
ピトリと私の胸にしがみつくエスメリアの頭にオリアナが座った。
その光景は人形を頭に乗せた小熊で、とても可愛らしい光景だった。
エメリーがそっと近づき、少し離れた場所でしゃがみ込んだ。隣にはレティシアもしゃがんでいた。
「私でもいいのよ?」
レティシアが両手を広げ、おいで!と言った雰囲気を醸し出し、その表情はとても優しかった。
少しムッとした表情でレティシアを見たエメリーは右手をそっと下から伸ばすと
「怖くないですよ」
少し固い表情を、精一杯緩め、そう言った。
エスメリアは戸惑うように二人を見ると、私を見上げ、困惑した表情を浮かべていた。
私はエスメリアに自分の意思で選んで欲しいと思い。
(好きな方に行ってみなさい)
エスメリアは二人を見つめ、ジッとして動かない。
私が優しく背中を押す。
オリアナがエスメリアの頭から飛び、レティシアの肩に座り、ニコニコとエスメリアを眺めていた。
ゆっくりとエスメリアが四足歩行で近づいていく。
まずは、エメリーの手のひらの匂いを嗅ぐと、レティシアの時のように、頭を擦り付けると、レティシアの腕の中に入ると二足で立ち上がり、スポリとレティシアの腕の中におさまった。
エメリーはエスメリアの感触に頬を上気させ、感触を確かめるように手のひらをジッと眺める。
エスメリアを優しく包み込んで、ニンマリと輝く笑顔をしたレティシアが
「昨日ぶりね。私の事覚えてたのかしら?」
「クキュウ~?」
首を傾げる。
覚えているのだろうが、まだ人の言葉を上手く理解できていないエスメリアは雰囲気だけで行動していた。
「ん〜?」
優しい顔でエスメリアと同じように首を傾げるレティシア、
「可愛いわね〜。エスメリアちゃんはあの植物を知ってるの?」
「クキュウ~?クキュウン!」
何となく察したエスメリアがレティシアの腕の中で足をばたつかせる。
レティシアが腕を緩めると。ポテポテと住処の外に歩いていき「クキュウン!」と鳴いて進んでいく。
住処の外に出ると、陽の光で照らされ、淡く輝く毛皮、揺れるお尻が可愛らしい後ろ姿に、自然と導かれるように後を追う。
エスメリアは何をするのか、胸が暖かく、踊り出しそうなワクワクを感じながらエスメリアの好きなようにさせる。
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