第27話 エスメリアのお守り



水場から住処の中に戻るとエスメリアは寝床に入ろうとしていた。


まだ寝るのか、


寝てしまう前に私はアイテムボックスからそれを取り出すと、念話でエスメリアの名を呼ぶ。


寝床から顔を出し「クキュウ?」と鳴いて首を傾げた。


アイテムボックスから取り出したそれを嘴に咥えると、そっとエスメリアに渡す。


エスメリアは両手を出して受け取る。


そこには木の隙間から入る陽の光で輝く、透き通ったオレンジがかったブラウンに、灰色がかったピンク色が、背中をグラデーションした、熊の形をしたものがあった。


エスメリアは無言でそれを見つめる。

次第に涙が溢れてきた。


私は予想外の反応に慌ててエスメリアに駆け寄ると、翼で優しく寝床ごと包み込む。


「クキュウ、クキュウ!」


"ママ、ママなの!"


エスメリアはそう言って、私の胸に顔を擦り付けて涙をふいていく。


嬉しい、そんな感情が伝わってきた。

私はホッとした。もしかして悲しみを思い出してしまったのかと思ったからだ。


渡してから気付くのは私はまだまだ、エスメリアの気持ちを考えてきれていなかった。


エスメリアが落ち着くまで包み込んでいると、私の体に体を預け、私があげたお守りを握って、寝息を立てていた。


優しくエスメリアを横にしてやると優しく首筋に顔を埋める。


若葉のような優しい香りがする小さな命に私は守るものとして、しっかりとできているのだろうか。


そんな不安を感じる、私なりに考えてきた。


でもそれはきっと私には分からない。

エスメリアが少しでも私がいて嬉しいと、親をなくした寂しさを埋めてくれたらそれでいいのかもしれない。


エスメリアから顔を離すと、寝床を包んで横になる。


この穏やかな時間が私にとって、とても大切な時間になっていた。




そんな穏やかな時間が続き、昼の少し前に


私たちの元に向かってくる4つの魔力を感じた。

魔力からしてバナードたちだ。


「すまない、後日と言ったが、次の日は早すぎただろうか?」



バナードが住処に入ってきた。


(問題ない)


「ねぇ、見たこともない植物があったのだけど、」


レティシアが首を傾げながらそう言った。

オリアナは住処におらず、私が生やした植物の周りを飛び、観察していた。


何と説明したものか、

前世の植物です。


とは言えない。スキルのせいにするか?


(私のスキルによるものだ)


「そんなスキル聞いたこともないわ。やっぱり貴方って不思議ね」


レティシアは納得してくれた。


「おい!あの熊ちゃん、なんだっけ、ほら!あの子は何処にいんだ?!」


でかい声で、とてもうるさい。


寝床の中でごそりと音を立て、エスメリアが起きてしまった。


出てこようとしないので、カルトンを警戒しているのだろう。


「すまないが今日来たのは私が使える国の王、国王に会って頂きたい」


バナードが空気を読まず、発言した。


(嫌だが?)


エスメリアに偏見だが、ドロドロと濁った、貴族が沢山いるような場所に連れて行きたくない。

いつか、会わなければならない時が来るかもしれない。その時に、もう一度よく考えたい。


エスメリアの綺麗な心が汚れてしまわないように。


バナードは想定していたのか、表情を変えなかった。


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