第5話
金曜の午後。
授業が終わった帰り道、駅前のカフェでひとり時間を潰していた。
まだ夜の出勤までには少しある。
このまま家に帰っても、ダラけてしまうだけだとわかっていた。
(なんか、ソワソワするな……)
テーブルに置いたスマホを、ちらりと見る。
通知は……まだない。
とはいえ、既読はついている。
たぶん、迷っているだけ。そう思いたい。
きっかけは、昨夜。
またあかりとやり取りしていて、なんとなく話が“休日の過ごし方”に変わったときだった。
『来週の土曜、休みです! 久しぶりにゆっくり寝られるかも笑』
その一文を見た瞬間、気づいたらこう打ち込んでいた。
『じゃあ、もしよかったら……昼間、ちょっとだけ会わない? お茶とか、ランチとか。短時間でも全然いいから』
自分でもびっくりするほど、あっさりと送っていた。
でもそのあと、急に不安になった。
“まだ早い”って、前に言われたばかりだ。
いくらタイミングが良さそうでも、強引に誘ったように思われたら……。
(いや、でも伝えないと何も始まらないしな)
そう自分に言い聞かせたものの、不安は拭えなかった。
アイスコーヒーの氷がカランと音を立てたとき、画面が光った。
『いいですよ。昼ならちょっとだけ会えます。カフェとか……なら。』
その一文を見た瞬間、胸の奥がふっと温かくなった。
(マジで……?)
嬉しさと同時に、変な緊張が走る。
たかがカフェ、されどカフェ。
今まで画面越しだったあかりと、今度こそ正面から会うことになる。
『ありがとう。じゃあ、土曜の昼。立川とかどう? 駅前にいい感じのカフェあるから』
『立川、全然大丈夫です! 楽しみにしてます☺︎』
文末の絵文字が、なんだか妙に可愛く見える。
──いよいよ、会う。
この一週間、ずっと画面越しだった彼女。
声も、仕草も、空気感も、まだ知らない。
でも、だからこそ知りたかった。
帰りの電車。
車窓に映った自分の顔を見て、思わずため息が出る。
(髪、ちゃんとセットしよう。服もアイロンかけよう。香水……控えめにするか)
そうやって少しずつ“準備”をする自分が、なんだかおかしくて。
けれど、それくらい本気だった。
夜の営業中。
キャストの女の子たちがバックヤードで騒いでいる中、先輩に肩を叩かれる。
「お前さ、最近なんか顔違うよな。いいことでもあった?」
「……別に、なんもないですよ」
「ふーん。じゃあまあ、いい顔になったってことだな」
そう言って笑う先輩の顔が、なぜかやけに優しく見えた。
(“いい顔”……してるのかな、俺)
土曜の約束。
それまであと一週間。
ただ会うだけ。けど、それが、こんなにも特別に感じる。
深夜、帰宅してベッドに倒れ込む。
スマホの通知を見ると、またあかりからのDM。
『土曜、カフェラテ飲みたい気分です☕️』
(了解。それっぽい店、探しとく)
そう返信して、スマホを伏せた。
知らないうちに、笑っていた。
たった一杯のコーヒーを一緒に飲む。
そのために、一週間が待ち遠しいなんて。
本気で誰かに会いたいって、こういうことなんだな。
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