第4話
水曜日の夜。
仕事を終えた俺は、アパートのベランダでコンビニのアイスコーヒーを飲んでいた。
このところ、毎晩のようにDMをやり取りしている。
あかりとの会話は軽やかで、でもその中にたまに「ん?」って引っかかる瞬間がある。
たとえば昨日。
『神谷さんって、家族と仲いいですか?』
突然そんな質問が来た。
『まあ……普通、かな。干渉されすぎないし、ほっとかれすぎないし。なんで?』
そう返すと、数分してからこう返ってきた。
『うらやましいです』
それだけだった。
話題はそのあと切り替わったけど、俺の中にはその一言がずっと残っていた。
(うらやましい、ってどういう意味だったんだろ)
気になって、深く聞いてみようかとも思った。
でも、まだ出会って数日。
そう簡単に踏み込める距離じゃないことくらい、わかってる。
あかりの表情や声を知らないまま、文章だけで全部わかるわけない。
だからこそ、知りたくなる。
翌日。
昼前に届いたDMに、また少し引っかかる言葉があった。
『来週、久しぶりに高校の友達に会うんです〜。めちゃ気まずそう笑』
『気まずいって?』
『んー、いろいろあって。あんまり仲良くなくなっちゃってから初めて会う感じなんです』
『ケンカしたの?』
『ケンカ……っていうより、向こうが離れていったって感じでした。私、ちょっと変だったから笑』
“ちょっと変だった”。
その言葉の裏に、何かがある気がした。
でも彼女はそれ以上多くを語ろうとはしなかった。
俺はベッドに寝転びながら、返信を書いては消してを繰り返した。
「何があったの?」と聞く勇気が、どうしても出ない。
(それを聞いたら、今の関係が少し変わる気がして)
そう思ってしまう自分がいた。
その夜。
仕事が終わって帰る途中、ふとコンビニの前で足が止まった。
いつもだったらまっすぐ帰るところを、俺はそのままベンチに腰を下ろしてスマホを開いた。
『今日もお疲れさま。神谷さんは優しいですね。あんまりそう見えないけど笑』
あかりからのメッセージ。
なにげない言葉だったのに、目が止まる。
(“あんまりそう見えない”って、やっぱり俺、壁あるのかもな)
夜職ってだけで、誤解されることも多い。
だからこそ、無意識に鎧をまとってるのかもしれない。
でも、あかりにはそれを見透かされてるような気がした。
『優しいなんて、たぶん違うよ。俺、弱いだけだから』
気づいたら、そんな言葉を送っていた。
少ししてから、彼女からの返信。
『それ、ちょっとわかるかも。私も似てます。』
『似てる?』
『私も、誰にも見せたくない部分があるから。だから、自分で先に距離置いちゃうのかも』
『でも、神谷さんにはつい喋っちゃうなあ。不思議』
スマホの光がやさしく滲んで見える。
ベンチに座ったまま、少しだけ空を見上げた。
(この子、やっぱり何かを抱えてる)
でもその“何か”を全部聞き出そうとは思わなかった。
ただ、知りたい。
彼女のことを、もっとちゃんと。
距離を測りながら近づくって、意外と難しい。
でも、それをやる価値があると思える相手に出会えたのは、きっと運命だ。
(いつか、ちゃんと話せる日が来るといいな)
夜の空は静かだった。
でも、心のどこかがざわざわしていた。
それが何なのか、まだ自分でもわかっていなかった。
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