第42話 形づくられしもの――シュペーマンとイモリの怪物


【場所】


 崩壊後の中央医療保存区キメラ・ゾーン

かつてヴァイレクトが再生医療の中枢拠点として管理していたが、今は“実験に失敗した命”が彷徨う廃墟。



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遭遇


 涼太とユーリが侵入した地下4層――そこは、生体実験の痕跡がそのまま残る忌まわしい空間だった。


 ガラスの棺のようなカプセル。

 大量のイモリの胎児。

 そして、その中心に、脈打つような巨大な影が蠢いていた。


 「ようこそ、“再生の楽園”へ」


 低く響く声。

 現れたのは、死んだはずの男――ハンス・シュペーマン博士。


 だが、その姿は既に人間ではない。

 左肩からは異様に肥大化した両生類の腕が突き出ており、皮膚は爬虫類のように湿り、粘液を滴らせていた。



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シュペーマンの宣言


 「私は再生を証明した。人間の体は、構成し直せる。

  “オーガナイザー”(形成体)を制御できれば、命はやり直せるんだ」


 彼は、1924年の実験――**“胚の原基移植”**を現代技術で再現し、ヒト×イモリの交雑体を作り上げた。


 >「君たちが“命の価値”だの“倫理”だの言うなら、見せてやろう。

  “完全な命”とはこういうものだ!」


 シュペーマンの周囲の水槽が割れ、無数のイモリ由来の人型生体が地を這い始める。

 その目は瞳孔のないゼリー状。

 かすかに、かつての医師や患者たちの顔が浮かぶ。



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戦闘:ユーリの共鳴


 ユーリの心臓ダイヤVer.3.6が異常に反応を始める。

 イモリの遺伝子コードに、ユーリ自身の再生型人工心臓の設計図が反応しているのだ。


 >「……このコード、私の心臓に組み込まれてたものと、同じ……?」


 かつて志岐がヴァイレクトの心臓研究に用いた再生医療技術は、シュペーマンの胚操作理論が元になっていた。

 つまり、ユーリ自身もこの怪物的理論の一部だった。



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涼太の叫び


 「……ふざけるな! これは命じゃない……命を模倣しただけの怪物だ!」


 涼太は爆薬のスイッチに手をかけかけるが、ユーリがそれを止める。


 「待って。破壊するだけじゃ、意味がない」


 ユーリの手が、イモリの怪物に触れる。

 その皮膚がかすかに反応し、溶け始める。

 心臓ダイヤの“再生波動”が、怪物の構成を崩壊させていく。



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シュペーマン、最後の言葉


 自らの肉体も崩壊を始めながら、シュペーマンは言う。


 >「……君たちは、理解できまい。命を再構築する“可能性”の前では、倫理など塵だ……!」


 ユーリがそっと答える。


 >「倫理は“枷”じゃない。

  命を扱う者の、“方向”だよ」


 シュペーマンの肉体はついに膨張しきり、イモリのように自己切断を起こし、音もなく崩れ落ちた。



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《キメラ・ゾーン》崩壊


 涼太とユーリは、最後に残った人工子宮の電源を切り、《キメラ・ゾーン》を爆破。


 霧の中、かすかに聞こえたのは、

 数百の小さな命がようやく“眠り”に就く静かな音だった。



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