第25話 命の価値、その向こうへ

 ――午前4時27分。

 北杜の峠を抜けた涼太は、緊急速報の通知音で目を覚ました。


 《ヴァイレクト本社、火災およびシステム障害。被害規模は未確認。死傷者数、調査中。》


 画面には「再生の医師団」の名が、曖昧な“関係者”として匂わされていた。


 「……始まったな」


 後部座席のトランクには、数日前に受け取った旧式の無線装置と、解体された拳銃のパーツ。

 その下に眠っていたのは、母の形見のカセットテープだった。タイトルは、手書きの文字でこう記されていた。


 「涼太へ――おかえりなさい、の練習」


 再生ボタンを押す。ノイズ混じりの声が、車内に流れる。


 >「……涼太、あんたが帰ってくるって思ってさ。へへ、何回も練習したの。

 > “おかえり”って、言えるように……」


 彼はしばらく、目を閉じた。

 まるで、胸に空いた穴に風が流れ込むようだった。



---


一方その頃――姫路、港湾倉庫KING


 KINGのアジトでは、ユエが仮想感染モデルの構築を進めていた。


 「症状は?」「脳内フィラメントの断裂パターンは?」「意識は?」


 彼女の問いに、ユーリが無言でモニターを睨む。


 心臓ダイヤと化したヴァイレクト幹部の死体が、徐々に黒く変質していく。

 それは未知のタンパク結晶構造だった――ユエの言葉を借りれば「医学ではなく、呪術の領域」。


 「やっぱりあんたたち、踏み込んじゃいけない扉を開けたのね」


 その瞬間、通信端末が点滅する。


 【受信:蟇田】

 【件名:Re: 真理絵について】



---


蟇田、覚悟の火を灯す


 ――地下の“意識保管槽”で、彼は立ち尽くしていた。


 「真理絵……お前が、こんな形で“分類”されていたなんてな」


 ファイルの一部はすでに削除され、記録の大半が“供養不要”として葬られていた。

 だが彼は信じていた。あの手紙、あの最期の声にはまだ“誰かの手”が加わっていない真実があると。


 彼は地下の非常口から装置を一つ奪い、旧友・諫間に連絡を取った。


 「次は……俺が暴く。命を、データに変えた奴らの正体を」



---


 次なる舞台:新宿・研究都市ヴァイレクト分所


 再生の医師団は、ある次の標的を狙っていた。

 それは“意識ネットワーク”の拠点、新宿・ヴァイレクト分所。


 ♠スペード:ユーリが、今再び呼び出される。


 彼の目に、感情はない。

 だがその奥に、涼太にどこか似た“人間の残響”が宿っていた。


 そして、再び道が交差する。

 ――涼太、蟇田、KING、ヴァイレクト。

 命の価値をめぐる、最後の審判が迫っていた。





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