第6話 龍ケ崎動乱 ―The Ryugasaki Uprising―
――開戦一日目、午前2時15分
空が赤く染まっていた。
それは夜明けの光ではない。
つくば市・研究学園駅周辺の爆破による、炎と煙だった。
――“龍ケ崎が攻めてきた”という速報が流れたとき、誰も本気にしていなかった。
人口も、予算も、研究機関の数も、すべてにおいてつくばの方が格上。
だがそれは、あくまで「正規戦」の話だった。
彼らは知らなかったのだ。
龍ケ崎には、“新海”がいる。
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午前3時30分 つくば市役所、非常用放送塔
「つくばの市民に告ぐ――」
放送塔に割り込む形で響いたその声は、くぐもり、どこか不気味に笑っていた。
「科学は、もうおめぇらのもんじゃねぇ。
おらの“研究”が、本物だって証明するべ?
それがいやなら、さっさと膝つけ」
その放送が終わると同時に、地下配水管から湧き上がる緑の霧が市街に広がった。
2時間後、研究所の職員13人が原因不明の高熱と幻覚症状で入院。
農産物流通センターが襲撃され、備蓄された食料とマスク、ワクチン、麻酔薬がごっそり消える。
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5日後。
龍ケ崎から土浦南部、つくば西部にかけての区域は“緑の壁”で区切られた。
通称、「シンカイ・ライン」。
人々はこの壁の外で怯えながらささやく。
「あの中に入った者は、帰ってこない」と。
中にいたつくば市民の多くは、新海の支配に従うしかなかった。
彼は奪った医療物資と食料を選別配給制とし、自らに従順な者にのみ与える。
逆らえば、地下実験体行き。
金も、薬も、飯も、すべて“彼”を通さなければ手に入らない。
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地下病棟B3。
冷却された実験室で、敦は再び新海と向かい合っていた。
赤黒い実験服に身を包んだ新海は、にやりと笑う。
「やっぱり来たが、敦。おめぇは“医者”だったよなぁ。
でも、いまはどっちだ? 人間か、ウイルスか」
「……あんたが選ばせたんだ。俺は、まだ“命”に賭けてる」
「命だぁ? おらに言わせりゃ、命は素材だっぺよ。
この街を生まれ変わらせるための、なぁ!」
実験槽に浮かぶ、人間だった何かの影。
新海の背後には、すでに20体以上の強化改造種が並んでいた。
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龍ケ崎は、もはや“町”ではなかった。
そこは――シンカイ帝国と呼ばれていた。
監視ドローンが空を舞い、工場跡地は巨大な“培養炉”へと変わり、
つくばから奪ったナノ機器やAIを使って、“都市そのもの”が変貌を遂げていた。
その中心に立つのは、新海 博光。
狂気の科学者は、つぶやいた。
「次は……土浦だっぺな」
伝説の医師③ ヘロフィロス
「ヘロフィロス」(Herophilos, 紀元前335年頃 – 紀元前280年頃)は、古代ギリシャの医学者で、西洋医学史上初めて人間の遺体を体系的に解剖した人物として知られています。彼の業績は、後世の解剖学・脳科学・神経学に多大な影響を与えました。
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🌟 ヘロフィロスの概要
項目 内容
出生地 ギリシャ・カルケドン(現在のトルコ・イスタンブール対岸)
活動拠点 エジプト・アレクサンドリア
時代 紀元前4世紀後半~3世紀初頭
分野 医学・解剖学・神経学
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🧠 主な功績
1. 人体解剖の先駆者
ヘロフィロスはアレクサンドリアで、処刑された囚人の死体を解剖することを許されていた(場合によっては生きたままの解剖という記録も)。
内臓、神経、血管系、脳などを細かく観察・記録した。
特に脳の構造に強い関心を持っており、**「脳は知性の中枢である」**と主張した(当時は心臓が知性の中心という説が主流だった)。
2. 神経系の発見
視神経と運動神経・感覚神経を区別。
中枢神経系と末梢神経系の概念を先取りしていた。
3. 静脈と動脈の区別
血管を観察し、動脈と静脈の違いを初めて指摘。
当時は正確な血液循環の理論はなかったが、ヘロフィロスは血液の流れに重要な関心を持っていた。
4. 医用用語の確立
多くの解剖学用語を創案(例:「duodenum(十二指腸)」など)。
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🧬 現代とのつながり
彼の業績の多くは後のガレノス(2世紀ローマの医師)によって引用されることで伝えられた。
残念ながら、彼自身の著作のほとんどは失われていますが、「医学の父」ヒポクラテスとは違った意味で、科学的解剖の祖とされます。
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🏛️ 歴史的評価と論争
一部文献では「生体解剖(vivisection)を行った」として倫理的に批判されることもあります。
しかし、彼の探究心と方法論は近代医学の基礎を築くものであり、今日の医学教育(解剖実習など)にも通じています。
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🔍 関連人物
名前 関連性
エラシストラトス 同時代の解剖学者で、ヘロフィロスとともに活動
ガレノス ヘロフィロスの理論を後に取り入れて体系化
ヒポクラテス 医学倫理の祖、思想
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