47.ケーキを食べて昔話に花を咲かせるだけの回
「今日のは力作ですよ……2段重ねケーキです。さあ! どうぞ!」
「
放課後。文芸部。
「製菓部で材料たくさん余ってたので二段にしました」
「佑宇の行動力、段々部長に似てきてねぇ?」
「はい先輩、あーん♡」
「これを俺は断るべきなんだろうか、イケメンからの溺愛として受け入れるべきなんだろうか」
「ケーキ落ちちゃいますよ?」
「はむ」
「ふふ……先輩が僕の手からケーキを食べた……なんだかかわいくて……ちょっとぞくぞくしちゃいます……」
「天熾よくない扉開いてるぞ」
二段ケーキ、といえども下段が12センチサイズの小さなケーキ。器用に三等分された洋菓子がそれぞれの皿の上に乗っている。
「氷月先輩には一応フルーツをとっておいたんですが。ご不在ですね?」
「りっくん今日病院」
「風邪ひいちゃいましたかね?」
「いいや。定期検診。『持病』の」
お行儀よく食べているはずの久野の鼻にホイップクリームがついている。
「大変すね」
「慣れたものだと思うよ。フルーツは僕がもらうね」
「何しれっと取ろうとしてるんですが。三等分です」
「あぁ、僕のブドウ」
「もう一個ありますから。全部取ろうとするからですよ」
一粒巨峰を受け取った久野がちまちまと皮を剥く。
「そういえば。部長と律先輩っていつから一緒なんすか?」
「幼稚園だね」
「いいですねぇ。僕も先輩と幼稚園からの仲ってことになりませんかね」
「なりません」
「幼稚園生の頃って記憶あります?」
「俺はイケメンの保育士さんに甘やかされてた」
「ブレませんね」
「ブレないっつか、そこが俺の原点だから。そこから俺のイケメン好きが始まってるから」
皿を持ちあげつつケーキに舌鼓を打っている三上。
「僕は……そのころは両親が日本にいたので、毎日演奏ざんまいでしたね。楽しかったです」
「お望みとあればいつでも付き合うよ。僕も演奏できなくはない。ギロとか」
「ギロですかぁ」
木に掘られた溝を擦ってギュイギュイいわせることでお馴染みの打楽器であった。さすがの天熾にとってもセッションの仕方はいまいち不明らしい。
「デスホイッスルも吹ける」
「なんて?」
「ぐっ……僕だってディジュリドゥ吹けますし!」
「なんて????」
「じゃあ今度セッションしよう」
「望むところです」
「俺を置いてかないでくれる?」
謎の楽器で張り合い出した二人と、疎外感を覚え悲しげな子犬のような顔をする三上。
「……幼稚園時代の部長とか話を聞くのも怖いな」
「そうでした。部長さんも赤ちゃんの頃あったんですね。よく好奇心で死なずにいられましたね?」
「なんで天熾くんって僕にはやたら辛辣なんだろう」
「なんか思い出とかあるっすか?」
「そうだな。テレビに人が映るのが不思議でさ……」
「ああ、裏側を調べたりしてたんですか? ふふ、ちゃんと子供らしいエピソードですね」
「いいや。分解したあげく受信してる仕組みがわからなくて屋根に登ってアンテナをバラバラにして壊した」
「前半は予想できてたけど後半危なすぎるだろ」
「何歳の話です⁉︎」
「5歳くらいかな。兄貴が手伝ってくれたんだ」
兄弟での共犯だった。
「おかげで一ヶ月テレビ禁止された」
「妥当ですよ。むしろ刑が軽くてびっくりです」
「ちなみにその後兄貴が仕組み全部懇切丁寧に教えてきた。腹立つよね」
「いいお兄さんでは?」
「僕が気になっただけで兄貴の自由研究じゃない。人の好奇心を奪わないでほしい」
久野が膨らまない頬に空気を入れる。
「後輩からの視線が冷たい。どうにかして威厳を回復せねば」
「回復するほど威厳ありました?」
「部長って顔の良さだけでギリ乗り切ってるところあるっすよ」
「ひどい」
「子供の氷月先輩はいい子そうです」
「はてさて。どうかな?」
「誤魔化しても部長レベルの子供ってそういねーから意味ないすよ」
肩をすくめて誤魔化した久野だったが、彼の
「くそう。こうなったら最終手段だ。子供の頃の僕を見ればそんなこと言えなくなるだろう」
「確かに見た目は天使だと思うっすけど」
「でも中身の悪魔を知ってしまっているので……」
「後輩が寄ってたかって僕をいじめる」
「で。園児部長の写真はまだっすか」
「え?」
「見てから判断するんで」
「きみ見たいだけだろ。図々しいな」
「なんと罵られようと構わねぇ、ちいこい部長が見てぇ」
「硬い意志です」
一切隠す気のない下心に気圧された久野が位置のズレたメガネを抑える。
「……僕だけなのは不平等だ。りっくん家に行けば僕だけじゃなくりっくんの写真もあるはず」
「どっちも見てぇに決まってる……!」
「よし。隠蔽する間もなく突撃するぞ。りっくん家に」
「あれ。これもしかしてあの流れですか?」
「次回! 氷月家!」
久野と天熾による即興セッション次回予告風BGMが奏でられた。
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