8・9月
42.兄、来たる
「やっぱりさぁ。ウチの校則ユルすぎねぇ?」
「何で僕ん家のリビングにいるの」
夏の午前。久野家にさも当然と言った面持ちで座っているのは裏氷月だった。
「俺様が言うのも何だが、染髪もピアスも化粧も果ては香水までOKだろ?」
「スルーして話し続けないで。何でうちにいるの。律」
「
「知ってる。僕もちょっと香水はやりすぎだろと思ってるし私服のネックレスに関してはホストかよと思ってる」
「だろ?」
「でも律の厨二病ファッションよりは大分マシ。何でりっくんの手持ち服からそんな中学二年生みたいなファッションできるの?」
ソファに座っている裏氷月の出立ちはというと、英字Tシャツに黒のノースリーブパーカー、無駄にベルトのついた半ズボンという高校生としてはまあかなり恥ずかしいファッション。
「カッコいいだろ?」
「頼むからりっくんの名誉のために普段の着回しと同じものを着て」
「えぇ? 格好いいと思うんだけどな」
普段の氷月の口調を真似ておどけた裏氷月に、らしくなく大仰に顔をしかめる久野。
「……まあまあ、そんな顔すんなよ。何で俺がお前ん家にいるかを教えてやるから」
「いまさら。どうせ父さんが上げたんでしょ」
「いいや」
裏氷月が後ろを指す。廊下に通づる扉を。
その扉を開き現れたのは。
「しお〜ん♡ お兄ちゃんが帰ってきたよ〜!」
「げぇ」
久野紫苑と同じピンクブラウンの髪をハーフアップにした大学生。
ただ、弟と違いメガネのない彼の表情は明るくニコニコと柔らかかったが。
「ぃ、いつ帰ってきたの……」
「今日〜」
「
「三ヶ月ぶりだねぇ紫苑。どう? また何か作ったりした?」
人当たりの良さそうな、弟の奇行に理解のある兄、かに見えたが。
「紫苑の為に色々勉強したり下準備して来たよ。何が欲しい? 会社? 権力? 国? そろそろ世界征服する?」
この弟にしてこの兄ありだった。
いや、兄がこうだったから弟がこうなってしまったのか。
「しない。いらない。ブラコンも大概にして」
「えー。せっかくお兄ちゃんがシアトルの大学に留学してるってのに」
「勝手に行ったんでしょ」
ひどいなぁ、と思ってなさそうな口調で唇を尖らせる兄、久野
「そんな感じで律君にも当たってるんでしょ? 良くないよ〜」
「そうだそうだ」
「二人でくっつかないで。気持ち悪い」
「どうしよう律くん、いつもにも増して弟のトゲが鋭い」
「紫苑、俺様のこと嫌いだからな」
「まだ『りっくん』にべったりなの?」
紫苑の眉がピクリと動いた。
「
「後輩? 新しいお友達ができたの? お兄ちゃん紹介してもらってないよ」
「兄貴に紹介するわけないだろ。恋人でもあるまいに」
「恋人⁉︎」
「うわめんど」
過保護な兄を刺激しまいと、去ろうとした久野紫苑の腕を掴む厄介者二人。
「後輩をお兄ちゃんに紹介しなさい。お兄ちゃんが骨抜きにしてから渡してあげる」
「うるさい! だから僕がやる前にゲームも勉強も何もかも攻略してから渡す癖やめて!」
「でもお兄ちゃんやっちゃうからな……たまにでも駄目?」
樹も自覚的だからこそ、わざわざ留学して物理的に距離を取ったのだろう。
「駄目。最近頻度が減った代わりに攻略対象が大きくなりすぎてる。この間本当に国一つ陥落させようとしてたでしょ」
「違うよ? 議員一族を攻略しただけ。紫苑がいつか必要になるかなーって」
はた迷惑なブラコンである。
「必要になったら僕が自分で乗り込むから」
本当に迷惑な兄弟である。
手を組んだら冗談でなく世界征服もできそうだ。
「そうだ。お土産あるよ。アメリカの新技術でね。これを使えば宇宙人を呼び出すことも簡単」
「……ちょっとなら話聞いてあげる」
「俺様これガチで止めなきゃいけないやつか?」
「ここのボタンをね……こうで……翻訳して発信できるから……」
「へえ……じゃあこうやって……こうすればUFOを各地に配置できる?」
「ガチで止めなきゃいけないやつかー」
しぶしぶ裏氷月が間に入っていく。
こうした幼馴染の努力によって地球の平和は守られているのだ。
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