第21話 屋敷での生活
当面はイルサさんにだけしか使う予定はないが、明日香さんの病気がぶり返すようならば明日香さんにも抗生剤を使用していくつもりだ。
昼になり、もう一度二人を呼んで、昼食を摂るために関内の街に出た。
前にも利用したことのあるテラス席のある小洒落たカフェで今回は三人で食事を摂り、その後は買い物にでた。
「関内は、物の値段が皆高いので野毛山あたりまで歩きませんか」
明日香さんは俺の財布を心配してくれる。
前にも同じようなことを聞いたことが会った。
「そうだな、久しぶりに野毛山まで足を伸ばすか。
イルサさん。
体調は大丈夫ですか。
ここからだと少し歩きますが」
少し熱ぽいイルサさんが心配になり俺は声をかけた。
「ええ、体が少し重いですが、歩く分には問題ありません」
「体が重いですか……そうだ、今日は治療も済みましたし、ここで解散しましょうか」
「解散ですか」
俺はイルサさんの体調を慮って解散を提案してみた。
「私は大丈夫ですが」
イルサさんは、俺等に気を使っているのか解散には不満があったようだが、俺からある提案を持ちかけた。
イルサさんの現状の住まいが高級ホテルのはずはない。
そうなると明日香さんのときにも心配してホテルで一緒に生活させたくらいなので、イルサさんにも同じようにしておきたい。
「先程いた屋敷に、俺達は引っ越しますので、明日もう一度来てください。
できれば、この後その屋敷に一緒に住んでいただけると助かるのですか」
「え?
私も同居させて頂けるのでしょうか」
「ええ、病気の治療には、時無く衛生面で一番気を使います。
普段の生活する場所の衛生面が私に見えないと治療も難しいので、明日香さんも同じ理由でホテルに一緒に住んでもらっておりますが、イルサさんにも同じようにしていただきたい」
「明日からでも良いですか」
「ええ、お待ちしております」
イルサさんとはテラスでそのように会話して一旦別れた。
その後、俺は明日香さんと一緒に野毛山まで足を伸ばして買い物をして回った。
明日からでも屋敷で生活できるように布団や鍋などの調理具を買って周り、明日届けてもらうようにいくらかのチップを渡して頼んで回った。
その御蔭じゃないが、かなりの買い物をしたのにも関わらず手ぶらで街歩きを楽しめた。
最後に俺は乾物屋で寒天を見つけた。
寒天……そうだよ、培地用に絶対に必要なものだ。
俺の長野で買った漫画にも描いてあったくらいだ。
俺はその場で買えるだけの寒天を買ってホテルに戻った。
明日香さんにはかなり呆れられたのだが、寒天も乾燥状態ならばかさばるだけで重くもないので、かさばる寒天を明日香さんと二人でホテルまで運んだ。
「しかし、たくさんの寒天買い込みましたね」
「ああ、すぐに使って足りなくなると思うから、追加の買い物を頼むかも知れませんね」
「え?
こんなに買っても足りないのですか」
「ええ、これから寒天は研究をする上で、絶対に必要なものですから、たくさん使用します。
この寒天の上に、調べる菌や青カビなどを増やして使います」
「青カビですか」
俺が青カビを増やすと言ったので、明日香さんは引いていた。
俺は簡単にこれからの予定を明日香さんに説明してのその日は終えた。
翌日も朝から屋敷に向かう。
その際、俺はキャスターカバンなど、ホテルにおいてある私物も運んだ。
なので、昨日買った寒天は明日香さんが持てるだけしか運べていない。
「昨日、慌てて買う必要はありませんでしたね」
なんて明日香さんから呆れられたようなコメントをもらいながらあの長い坂を登って屋敷に向かった。
屋敷の前でイルサさんが既に俺達を待っていた。
「申し訳ありませんでした」
「いえ、私もいま来たところですから」
俺は急ぎ屋敷の玄関の鍵を開け、二人を中に入れた。
二人は、昨日と同じように、屋敷の窓を開けて周り、その後掃除を始めている。
昼前には、昨日買って回った布団やら鍋やらが届いた。
布団は、いくつかある部屋に置いてあったベッドにそれぞれセットしてもらい、鍋類の調理具は台所に持っていき明日香さんたちに片付けてもらった。
俺は、持ってきている私物を抱えてそのまま二階の書斎に向かう。
書斎扉に鍵をかけてから金庫を開けて、顕微鏡やらのこの時代では完全にオーパーツに当たる品々を中にしまった。
あまりこの時代の人には見せることのできないオーパーツ類の片付けを、大きな金庫にしまうことで済ませると、下から明日香さんの声が聞こえた。
「あれ、猫?
かわいい」
どうやら猫を見つけたようだ。
そういえば、俺の不思議な体験も猫から始まった。
そう思い、明日香さんお声の聞こえる方に向かった。
下に降りるとイルサさんも明日香さんの声に惹かれたのか二人の話声が聞こえてきた。
声のする方に向かうと、診察室があった部屋の方だ。
俺が部屋に入ると、明日香さんとイルサさんが猫をかわいがっているのが見えた。
「あ、一様、すみません仕事中でしたね」
「あ、いや、構わないが……」
目の前で美女に可愛がられている猫には見覚えがあった。
そう、俺のことを引っ掻いたあの猫だ。
似たような猫じゃない。
俺は仕事柄猫の見分けだけには自身がある。
俺が気がついたときにはあの国債と入れ替わってしまったあの猫だった。
「一様……」
俺の様子がおかしいことに気がついたイルサさんが俺に声をかけてきた。
「ああ、その猫、見覚えがあるんだ」
それにしてもおとなしい猫だ。
俺が東京で保護したときにも感じたことなのだが人馴れしていると言うか、とにかくおとなしい。
だから油断したわけでもないが、ゲージに手を入れただけで引っかかれたのには驚いたが。
まあ、令和日本からのやりかけの仕事でもあることだし、何かの縁を感じたこともあり、この屋敷でこの猫を飼うことにした。
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