第8話 銀行預金

 翌日、目を覚ますと明日香さんはすでに起きていた。

 着替えも済ませており、身支度は終わっている。


 あれ、下着は昨日のまま……だろうな。

 そのあたりについても、改善させる必要がありそうだ。

 まずは、食事をしてからと、俺は明日香さんをとも会って、食堂に降りる。

 二人で朝食を済ませた後、ラウンジで明日香さんと話し合った。


「この後ことだけど」


「私はどうすれば……」


「しばらく俺と一緒にこのホテルにいてほしいかな」


「え? よろしいのですか」


「ああ、昨夜も話したことだけど、俺にも助けが欲しい都合があるので、今後は一緒に行動してもらうけど、いいかな」


「はい」


「ならば、街歩きの出来る服装と、下着類を持ってきてくれないか」


「私の服は、仕事用しか……」


 ああ、そうか。

 イブニングドレスしか持ち合わせが無いのか。

 それ以外となると横浜駅周辺で見た和服かな。


「全くない訳でもないのだろう」


「はい……」


 小さな声で返事をしてくれたが、街歩きには向かないのかもしれない。

 なければ俺が買うだけど、いずれ明日香さんの家にもいく必要はありそうだが、今はそれどころでもないし、昼過ぎにホテルで待ち合わせをすることでそのまま分かれた。


 俺はフロントに行き、この先十日の期限まで俺の借りている部屋にもう一人を連れてくることを伝えて、ホテルの確認を取った。


 問題ないとのことだったので、次に俺は横浜で生活するために銀行についての情報をフロントから聞いた。

 なんでも、ここ横浜には第一国立銀行の支店と、第二横浜銀行があることを教えてもらった。


 他にも外国との為替取引専門の銀行などもあるようなのだが、普通の人ならばまずこの二つの銀行での取引で間に合うとか言っていた。

 そもそも、商売でもそこそこの商いでない限り銀行など使わないのが普通らしい。


 その二つの銀行は共に関内にあり、それも近くのあるとようなのだ。

 俺は一度、部屋に戻り服をこの時代に落とされた時の様にスーツに着替えた。


 それと口座開設にあたり、いきなり俺の持ち金全てだと、さすがにいろいろとまずかろうと思うので、とりあえず一万円分を分けて用意した。

 これでも大金にはなるかとは思うが、これくらいの方がインパクトがあるので、今後を考えると良いだろうと考えている。


 ちなみに明治20年で一万円の価値はどれくらいかとPCを使って調べてみると、いろいろと比べるものによって異なるが、日銀の資料によると大体1円が2万円に相当するから1万円では二億円になる感覚だ。


 これくらいなら驚かられるはずだが、大きな問題にはならないだろう。

 役者でもなったつもりで、ホテルで呼んでもらった人力車に乗って、出陣……違った、出発だ。

 

 最初に着いたのは近い方にある第一銀行横浜支店で、現在の神奈川県立博物館になるとか。

 よくよく調べてみると、違い、令和の博物館は俺には関係ないと考えている為替を扱う横浜正金銀行で、第一銀行の横浜支店は、そこからはすぐ傍にあった。


 で、そこに入り入り口付近で一番偉そうな人を捕まえて、口座開設と預金について尋ねる。


「すまないが、私は長らく海外に出ていたのだが、日本に戻りここに拠点を置きたくて口座の開設と預金がしたいので、案内をお願いできないだろうか」


「それでしたら、あちらの窓口で伺いますが」


「1万円でも窓口で受け付けてくれるのかな」


 俺はそう言って、背取っているリュックの口を少し開いて中の金を見せる。

 あ、この場合、国債など一万円以外のお金も見えないように工夫してあるが、それでもたくさんの一圓札を見せたので、俺が聞いた行員は慌てて事務所の中に入っていった。

 すぐにお偉いさんを連れてやってきた。


「お待たせしてすみません。

 私は本銀行の支店長を務めます高安礼三と申します。

 お話は奥の応接にてお伺いしますので、どうぞこちらに」


 俺は支店長だという高安さんについて応接に入った。

 応接に入ると、さっそく支店長から話をされる。


「口座を当銀行でということでお間違いないかと」


「ええ、今回用意しました一万円を入金しておきたく、持ってきました。 

流石にそれだけの大金だとホテルに置いておくにも物騒なんもので」


 俺はそう言ってから、背取っていたリュックから一万円の現金を取り出して机の前に置いた。

 するとすぐに支店長は行員を呼びにやり、俺の目の前で金額を確認し始めた。

 行員が一生けん目に紙幣を数えているそばで、俺に不信の目を向けてきた。

 さすがに、不審に思われても仕方が無いか。


「誠に申し訳ありませんが、これらのお金の出所をお聞きしてもよろしいでしょうか」


 俺はさっそくここで、昨日考えたカバーストーリーを展開する。


「南米に渡った祖父が一山当てて、親父が現在その鉱山を経営しているが、私は祖父の故郷でもあり、最近急速に力をつけている日本で、一山当てたくて戻ったというのも変になるが、戻ってきたわけです。

 その際に、父親から相当な資産、ほとんどが現金なのですが託された訳です。

 今回お持ちした一万円はその一部だとお考え下さい」


「すると他にも……」


「ええ、日本国の発行した国債がありますが、もし、資金が必要になった場合にここでその国債を換金はできますか」


「それは可能ですが、お時間はかかります」


「それは良かった。

 その際にはお願いしますね」


「金田様。 

 確かに一万円を確認しました。

 全てご入金ということでお間違いないでしょうか」


 そこから手続きに入った。

 残念なことに住所が決まっていないので、俺の泊まっている横濱グランドホテルを仮の住所としてもらった。


 すぐにでも拠点の購入を考えているとも伝えてある。

 最後に、雑談という名の営業が入る。


「金田様は、ここ横浜で事業をご検討されていると先ほどお聞きしましたが、実際に何をされるのでしょうか。

 すでに構想などありましたら、私どもも何かご協力ができるかもしれませんので」


 確か、第一国立銀行は渋沢栄一氏が作った銀行で、その渋沢さんは 本当に多くの企業設立にかかわっていたとか。

 まあ、この銀行を通して資金面から協力していったのだろうな。

 今目の前でされている営業の様に。


「ええ、考えはあります。

 薬の製造と販売など……」


「それは……」


「まだ、公にはできませんよ。

 これからですから。

 ですがそうですね、これだけは言ってもいいかもしれませんね。

 ここ横浜でも性病ではお困りでないですか。

 ちょっとホテルで小耳にはさんだもので」


「ええ、そういう話は聞きますね」


「なんでも梅毒は深刻だそうで」


「え!

 梅毒を治せる薬が……」


「まだ秘密ですよ。

 もともと梅毒は日本の病ではないのでしょう」


「ええ」


「もともとの話は南米に立ち寄った白人が世界に広めたとか。

 ですが、南米で生活をする人全員が梅毒患者でもありませんよね。

 独自に伝わる秘術というか、そんな感じですが、それが日本でも通用するかをきちんと調べてからになりますから、そういう意味でも資金は必要になりますか。

 その時になったら、お願いに上がります」


 まあ、言っている俺が聞いても怪しく聞こえるのだから、どこまで信じてもらえるかは分からない。


 でもペニシリンが有効なのは立証されていることだし、治療法も確立されている。

 ペニシリンの投与だけで済む。


 尤も治療が完治したかどうかの判別まではすぐにはできそうにないけど、生きていけるのだから問題ないだろう。

 まずはペニシリンの製造からだな。


 これは漫画を頼りに考えよう。



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