第7話 病気の治療と、この先の方針

 しかし、いきなり梅毒に当たるとは……当たり前か。

 ここは横浜、海外からの人の出入りも多く、彼女はそういう人の相手をして生活していたのだ。

 ならば、いくらでもそういう機会はあったはずだ。


 知識が無ければ罹患者から簡単に移されるだろうが、いや、知識があっても初期症状ではそもそも病気の発見が難しいと家庭の医学にも書いてもあるし、俺は運が良かっただけなのだが、それだけにこの世界でもデンジャラスということか。


 物語に出てくるようなハードボイルドの世界も現実では、特に病気が絡むとかっこよく終わりそうにない。

 しばらく待っていると彼女は浴室からバスローブをまとい出てきた。


「座って少し話そうか

 その前に、このお金をしまってくれ」


 俺がそう言うと彼女が怪訝そうな顔をしてきた。

『え?しないの?』 って思ってでもいるのだろう。


「俺の話を聞いてほしい」


 俺はそう切り出してから、午前中の考えたカバーストーリーに病気と薬の知識を加えたのを話して聞かせた。


「そういう訳だから俺は、日本に帰って来たと言っても、初めての日本だ。

 見ること聞くことがすべて珍しく思える……が、それは周りに日本人からしたら俺が異質に見えるだろう。

 だから、俺は協力者を探している」


 ここまで話しても、彼女は俺が何を言いたいのか見えていない。


「先にも話したが、俺は医者ではないが病気に詳しい。

 その俺が気になったので話すが、君は調子が悪いだろう」


「え?」


「少し熱っぽく見えたしな。

 ただの風邪くらいならば、俺は何も言わなかったのだが、君は病気にかかっている。

 ここでは何と言われているか知らないが俺の知る病名では『梅毒』のようだ。

 思い当たる節は無いかな」


 俺が梅毒を口にしたとたんに彼女の様子が変わった。


「あの、病気ですか。

 決して治すことができない……」


 そこまで言って彼女は泣きだした。

 しばらく待ってから俺は彼女に提案してみた。


「俺なら治せるかもしれない。

 もし、君が治したいと真剣に考えているのならば手を貸すが」


「え!」


 彼女は驚いた顔を俺に向けてきた。

 しかし、ここまで言って思ったのだが、どう見ても詐欺トークの様にしか見えないな。


 いったい、これでだれが信じるというのかな。

 でも彼女は違った。


「治せるのですか……ですが私には何もありませんが……」


 どうも彼女はお金が無いとでも言うのだろう。


「稼いだお金は、悪いやつらにでも取られるのかな」


「いえ、そういう人はいませんが……、病気を治療するって、相当お金がかかるのでしょう。

どうすればいいですか。

 私にはこの身一つしか……奴隷でもいいですので、治してください」


「治療はできるが、必ず治るとは約束できない。

それでも良かったら治療するよ。……そうだな、報酬については今後俺の手伝いでもしてくれればいいよ。

 賃金は支払うが、一晩で2円は流石に出せないかな」


「それでいいのですか。

 本当にこれからはご主人様に従いますから、従いますから助けてください」


「わかった、まずは名前を聞いてみようか……そうだな、俺も名乗っていなかったな。

 俺は金田一だ。

 先にも言ったけど昨日ここ横浜に着いたばかりだ」


「私の名前は明日香です。

 苗字は知りません」


 そうだよな、明治になって国民すべてに名字が許されたのだが、知らないということでは戸籍が無いのかもしれないか。

 いずれ考えるが、とりあえず明日香さんか。

 ならばカルテでも作ろうかな。


 その前に病気に説明からか。

 俺はPCからっ情報を取り出して説明を始める。

 こういう場合に家庭の医学は大変役に立つ。

 バスローブを脱がして全裸にしてから、股間の腫れを指さして説明する。


「まずは、もう一度体をきれいにしようか。

 特に患部を、ここだけどいいかな」


 俺はそう言って、明日香さんをもう一度浴室に連れていく。

 今度は俺と一緒にだ。

 彼女は、梅毒だということが相当ショックだったのか、俺の言いなりで、考えたら相当恥ずかしいことを要求しているのにもかかわらず、素直に俺の指示に従ってくれた。


 俺は調子に乗って、令和時代から持ち込んだ持ち物からシェイビングクリームと髭剃りを使って秘所に生えている毛をそり落として、きれいに洗った。

 その後、ベッドまで連れていく薬を付けるが、梅毒には抗生剤が有効だと聞いているので、俺が使った軟膏を俺の手で腫れている患部に塗りたくった。


 ここでも調子こいて、指先で秘所をまさぐることもしたが、これくらいはお金を払っていたし、許されるよね。

 後、バイタルを調べるのだが、普通体温や血圧を調べるよな……あ、俺持っていた。


 俺の腕時計には万歩計が付いているから使っているのだが、この時計って健康時計として売っていたもので、お隣さんの怪しげな会社からネットを使って買ったものだ。


 しかし、この時計の機能では本当に色々とある。

 それこそ血圧や、心拍数に酸素濃度や血糖値までもが図れるとあった。


 実際に時計を腕に付けた状態で、それらの機能を選ぶだけなのだが、出てくる結果は健康診断の時の数値と比べても結構当たっているといったレベルだ。


 何せきちんと政府の機関の認証を得ていないので、日本の健康メーカーから発売されている高額な物よりは出てくる数値は怪しいが、無いよりはましだ。


 俺は明日香さんに俺の腕時計をはめて、血圧と体温を測ってPC上に記録していく。

 明日香さんは心配そうにしていたが何も言わずに俺のされるがままだ。


「今日のところはこれで、おしまい。

 後はそのままベッドで休んで明日にしよう」


「このまま、私はここにいてもよろしいでしょうか」


「ああ、衛生管理上、正直不潔とは言わないが、よくわからない所にいてほしくは無い。

 治るまでは俺と一緒にいてほしいが、それでも良いか」


「ハイ」


 彼女には、そのままベッドで寝てもらう。

 まずは体力をつけてもらうしかない。

 俺はもう少し詳しく調べてみる。

 最悪、使用期限切れ寸前の抗生剤のアンプルもあるし、あれって動物用だが、人にも使える……はずだよな。

 同じ哺乳類なのだから。


 一応そのあたりについても調べてみるか。

 しかし、それにしても長野で買った漫画のような展開だ……そうだ、俺もこの世界でペニシリンを作り販売していくか。


 明治の20年。あ、違った明冶20年ならば、法律とかもそれほどうるさくないだろうし、できればさっさと特許でもッて、特許制度ってあるのかな。

 まあ、日本でなくともアメリカあたりで売り出せば俺が楽に生活できるくらいはお金が稼げるだろう。


 昨日は、この先について不安もあったが、とにかく生きていくことだけを覚悟したが、どう生きていくかは決めていなかった……いや、わからなかった。

 だけど、明日香さんのことを考えると、同じ境遇の者もたくさんいるだろうし、その女性を買った紳士たちにも病気が蔓延しているだろう。


 紳士たちに薬を使って治療していけば相当お金を取れることだけは請け合いだろうが、まずは信用を勝ち取ることからだし、何より、俺の持ち込んだ薬を使うのはダメだ。


 継続性が無いので、まずは、ペニシリンの製造からだな。

 そのあたりは、漫画やPCから情報を取り出して作るが、明日香さんだけは手持ちの薬でどうにかしないとな。


 治療方法については今調べた範囲ではペニシリン注射だというのだが、もう少し調べてからにしよう。

 患部に抗生剤を塗り込んでも体内に抗生剤が取り込まれるだろうし、座薬……っていうのもありかも。


 尤も薬でなく俺の指を使って軟膏を擦り込むのだが、どちらにしてももう少し調べてみるか。


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