第10章「地の揺らぎと、記憶の再起動」
深海の記憶を再起動した一行は、次なる運命の地――ジオ=スラフト旧地層国家へと旅立った。
そこはかつて地中深くに築かれた文明国家であり、地の契約を重んじる国だった。
だが、地震・火山・地殻変動の頻発に襲われ、最終的には国土ごと地下に封じられてしまったという。
そこへ戻るにあたり、大地の化身・ガルド=テラは自らの“もう一つの故郷”に向かう覚悟を固めていた。
* * *
荒廃と化した列車の終点、廃駅のホームに立つ三人の姿は、薄暗い空気に包まれていた。
天空から降りてくる鉱石と地裂の振動。足元に響く地のうねり。
縦横に走る割れ目が、小さな地震のように連鎖し、
その割れ目の奥に眠る地下都市への入り口が、わずかに開いていた。
「私は、ここで“地の声”を聞いた」
ガルドは震える声で言う。
「かつて、地そのものが語りかけてきた。
人々が大地を掘り、根源を切り裂き、錯誤の果てに国を滅ぼしたと……」
シェリアもリヴィスも深く頷いた。
三者の観察者たちは、今、自らの中に内在する“記憶”と向き合う準備をしていた。
* * *
地下に広がるのは、巨大な石の神殿と廃棄された都市跡。
通路には古い灯りが淡く灯り、石壁には鍾乳とともに古文書が刻まれていた。
だが最も目を引くのは――神殿中央にそびえる、**巨大な
かつての指導者が、大地のエネルギーを集め、地震や火山の制御を試みた装置である。
しかしその結果、大地の意思とは逆行し、契約違反によって国土が崩壊する引き金ともなった。
「この装置は……“再契約”の鍵かもしれない」
ガルドは息を整えながら語りかけた。
「だが同時に、破壊の起点ともなった」
* * *
三人が記録を探るうち、石壁に刻まれた文書が浮かび上がった。
影のような文体で書かれた古語は、次のように記す。
『われらジオ=スラフト民は、大地と共に生きる契約者。
地震も火山も、地の意志として受け入れよと信ずる。
されど人の傲慢が、地の篭りし力を引き出しすぎた。
我らは大地を操り、地を縛った。
結果、地は怒り、都市は裂け落ち、記憶は地層に葬られた。
その罪を断つには、我らの意思を再起動せねばならぬ。』
読解を続ける中、地の空間が突然振動した。
「地が……呼んでいる」
ガルドの声は震えていた。
* * *
記憶とともに装置の動力が高まり、石柱が光り出す。
地震で崩落しかけた天井の岩盤が、ふたたび結晶状に変化していく。
その瞬間、ガルド自身の意識が装置と共鳴した。
彼は大地の意思と“再契約”を交わす役目を負わされる。
「地よ…………私の身体を通じて、語りたまえ」
ガルドの言葉と共に、装置は最高潮へと動く。
* * *
しかし、再起動の途中で異変が起こる。
装置に組み込まれた古代センサーが震える。
「――外から“記憶なき民”の波動が来ている!」
リヴィスが声を上げた。
記憶なき民と深海の知識が、地の記憶と干渉し始めたのだ。
大地と海、風と地――三つの意思が、装置の中でぶつかり合う。
その重なり合った音と振動は、神殿全体に轟きだした。
「これが……再起動の“試練”か」
ガルドが呟くように言った。
* * *
三者は互いの手を取り合い、光と振動の中に立ち尽くした。
風は地の裂け目を癒し、海の深層から記憶の波が押し寄せ、
大地の装置はその意思を一つにまとめようとしていた。
そして――咆哮のような轟音が響く中、装置が停止した。
揺らぐ大地は、徐々に静けさを取り戻していった。
装置は無事に再構築され、地の記憶が“再起動”された証として、
新たな地脈の脈動が、神殿の床に刻まれた。
* * *
ガルドは装置の前で、静かに立ち尽くした。
「……大地もまた、記録なき民と同じく、記憶の犠牲者だった。
人の意思によって安心を求められながら、自らの意思を封じられた」
シェリアとリヴィスも、それぞれ声を震わせながら頷いた。
三者の胸には、新たな確信が芽生えていた。
自然と人類の再契約は、記憶と意思の交差点にこそ成立する――と。
そして、三柱は神殿を後にした。
地上に再び昇る朝日が、うねる地脈の裂け目を美しい黄金に染めていた。
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