8:廃ダンジョン配信者として生きる!
疲れた。初めてのコラボ撮影に、私は思っていた以上の疲弊を感じていた。自宅に戻るとすぐに、私は泥のように眠っていた。そして、今起きた。お昼の12時。昨日の晩御飯も、当然朝ごはんも食べていない中で、自宅の中で腹の音が響きだす。
「お腹空いた~」
そう言うと、ピロンというスマホの着信音が聞こえた。それは、ふうりんちゃんからの通知だった。私の行動が筒抜けだったかのように、ご飯のお誘いだった。今日くらい、少し休んでいいか。そう甘やかして、私はその誘いを受けて外に出た。
「外で食べれるくらいの金額はあるか......」
電車の中で財布とにらめっこをしているうちに、ふうりんちゃんが伝えていた場所にたどり着いた。彼女の拠点、東京なのによくこっちのことリサーチできるな。
「おつかれ、ふうり」
私服姿で目深に帽子をかぶる彼女に挨拶しようとすると、彼女は慌てた様子で私の顔を彼女のバッグで隠す。
「あああああ!!!」
「なななな、なに?」
「いや! ここで配信名はなし! 鈴花で、お願いしますね? 後、ちゃんと顔かくして下さいよ。配信者としての自覚あります?」
「そんなことないって、自意識過剰すぎ」
「だめです! お姉様は、素で美人なんですから。私の伊達眼鏡貸すんで! はい! はい!」
これは、私が気にしてなさすぎなのか。彼女が気にしすぎなのかわからないが、ここは彼女の言葉に従うしか、彼女の取り乱した状態を元に戻せなさそうだ。
「わかった、わかったから......」
私は彼女から借りた眼鏡を借りて、そのままお昼のために近くのたこ焼き屋へ向かった。彼女の顔はかなり、楽しみにしていた様子だった。
「今日で大阪発っちゃうから、たこ焼きでも食べて帰ろうと思ったんです! ここって、おいしいんです?」
「チェーン店だから、はずれはないんじゃない? てか『くるくる』なら東京にもあるんじゃ」
「そういうのはいいから、行きましょ。お姉様」
もうお姉様と呼ぶのが板についておる......。
この子、どんだけそのあだ名気に入ってるんよ......。
でも、あだ名なんて小学生以来かも。
「わかったから、引っ張んないの」
呆れながら店舗に入り、二人でたこ焼きを注文した。
しばらくの無言の時間が流れると、彼女が水を飲んで口を濡らした。
「んで、これからどうする?」
「どうって?」
「このまま個人でやんの?」
「楽だけど、厳しいかな......」
「うん、わかる~。私もその頃あったからさ」
事務所所属となると、やっぱり引っ越しとかになるのかな......。
まあ、ここに留まる理由もない、かな......。
「お姉様はどうしたい?」
私は考えるふりをして、水を含んだ。
タイミングがいいのか悪いのか、タコ焼きが届いた。
「おまたせしました~」
配膳されたたこ焼きを目の前に、彼女は目を輝かせる。
割り箸を彼女に渡して、自分も手を付けようとしたとき、彼女はボソリとつぶやく。
「事務所、入らないの?」
本命はこっちか......。事務所も、人気になりつつ配信者を逃すわけにもいかないと踏んだんだろう。でも、なんでその事務所じゃなくて、彼女から話を聞いてるんだろう......。
「......。まだ、わかんない」
「よかったら、うちこない?」
「でも、それって」
「私が来てほしいってだけなのはわかってる。でも、わがままでも言わないと、お姉様はずっと、1人で生きていきそうで!」
心が揺らいだ。ほくほくとしたたこ焼きが湯気のせいか景色やふうりんちゃんも揺らぎ始める。その揺らぎの中で、フミの顔がふと浮かんだ。そして、生駒ダンジョンに引きこもりっぱなしのドーナツさんも......。私は、二人を置いていける気がしない......。
「私、まだやり残したことがまだまだある気がする。だから、まだ」
その言葉に、彼女は意気消沈としていた。本当は行きたいって言いたいところだけど、私のステージはまだここにある気がする。
「わかった......。でも、来たくなったらいつでも来て! その時は、私が推薦してあげるから!」
「相変わらず上からね。でも、ありがとう。少し、気が楽になったかも」
そう言って、私達は残りのたこ焼きを食べていった。本当にふうりんちゃんはおいしそうに食べる。ホント、楽しみだったんだな。
「今日はありがとう、ごちそうにもなっちゃって......」
「くるしうない......。実は、これでもお姉さんなので」
”お姉さん”は私じゃないのかよ。と思いながらもふうりんちゃんの年齢がふと気になった。同い年くらいに見えるけど......。年下だったり?
「え、そうなの? 私20だけど?」
「げ、若っ......。やっぱ、今のなし。年齢非公開の美少女やってるんで......(本当は25なんですけど)」
ボソリと言った年齢の意外性に私は驚きを隠せなかった。私をお姉さん呼びするもんだからてっきり下なのかと......。でも、そうか。配信者として活躍してるってことは、それなりの実績あるってことだもんな。それくらいが逆に普通か。
「え、ふーん......。そうなんだ......。でも、だからって態度改めたりしないからね。ふうちゃんが先にタメ語でいいって言ったんだからね?」
「うん! これからも、よろしくね! 椿ちゃん!」
そう言って私達は、大阪駅で分かれた。彼女はきっと、新幹線で向こうに帰るのだろう。それじゃあ、私も帰ると......。いや、やっぱり配信少し頑張ってみようかな。
私は、勢いのままに走り出していった。 場所はそう、生駒ダンジョン。ふうりんちゃんの言葉で、私は決めた。ドーナツさんとコンビを組んで配信すると。
「おじさん?」
ドーナツさんは意外にもダンジョンの浅い層にいた。
そのひげ面は、今更見ても慣れない。昔は爽やかなイケメンお兄さんだったのに、すっかりイケオジになっちゃった。
「んだよ」
「あのね。私と、一緒に配信してください!」
「やだ」
「はい! はい!?」
なに? なんでよ!
「なんでよ! ここは”いいぜ”って言って私の配信人生がガラッと変わるていうシチュでしょ!?」
「なに一人で盛り上がってんだ。もう日が暮れる。夜の山はあぶねえから、早く帰れ」
そう言って、私の言葉なんか耳を貸さずに追い返された。
くっそー。こうなったら意地でも振り向かせてやる! こうなったら、私自身魅力をもっと磨かないと
「もっと配信して、有名になってやる!」
私は一層、意思を固めて帰路についた。
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