7:また、あったね

『さっきの何だったの?』


『スクリームって言うんだって』


ふうりんちゃんとの配信は後、1時間ほど枠が残っているようだ。カメラ担当がずっと私達にそう合図している。そんなこと気にもしていないかのように、ふうりんちゃんは話を続ける。


『へー、そんな名前なんだ。じゃあ、始めにでたクモも名前あるのかな?』


『それは、知らんけど......』


『出たー! 関西人の「しらんけど」。生で聞けた~!』


『そんなに喜ぶもん?』


:でた『知らんけど』

:なんか、雰囲気がよくなってきたな

:盛り上がってきたな

:あ^~。てえてえ

:姐さん頑張れ! 姐さん頑張れ!


『あーもう、うるさいよ。ホラーっぽい雰囲気が台無し』


とはいうものの、その雰囲気に助けられている部分はある。

まじ、コメントとふうりんちゃんがいなかったら私、こんな暗くてジメッとしたところに1人で来れる自信なかったし......。


『あ。ねえ、これ階段じゃない?』


ふうりんちゃんが指さしたのは確かに段々になっていて、階段に見える。このダンジョン、奥行きだけじゃなくて上もあるのか。


『初めて見た。 ちょっと、行ってみる?』


『うんうん、行く行く!! めちゃくちゃヤバいものがあったりして!』


なんかハイテンションになってきたな、ふうりんちゃん。いいことがあればいいけど......。そのためにも上の階に登るか......。はじめより軽くなった足を誰にも聞こえないように密かに上がっていくと、そこには下と同じような景色が広がっていた。けど、なんだか騒がしい? そんな感じがする。


『気を付けて。なんだか、胸騒ぎがする』


『はい、お姉様!』


『普通につばっちゃんでいいから』


『ええ? でも~』


「き、きゃーーー!!」


:は?

:誰の悲鳴?

:ふうちゃん!? 大丈夫?

:やばいこと起きたー!!


『は、なに?』


突然どこかから叫び声が聞こえる。私は違うことはわかっていたけど、とっさにふうりんちゃんの方を向いた。分かってはいたけど、彼女は驚いた様子で首を振る。


『え、私じゃない! なに? 誰か、はぐれた人いない?』


そこはしっかりプロの探索者といった顔だ。彼女の言葉に、撮影班は静かにいないと示した。たしかに、私から見ても全員いる。なら、他に誰が......。ま、まさか......。


『とにかく、声の方に行くしかない! 誰かほかにも探索している人がいるのかも!』


そう言ったものの、洞窟のせいか反響して場所が特定できない......。


『誰かいるの!?』


『た、たすけて!!』


裏返ったような声。相当焦ってるみたいだ。

なんとなく、前から聞こえて来た気がする。

そっちの方へ向かってみるか。


『私の声のする方へ、来れる!?』


『あ、ああ!! だが、だけど、幽霊が!!』


『幽霊がなんぼのもんじゃい! 命とどっちが大事じゃ!』


『は、はひぃ......』


少し声が安定して低くなっていき、聞き覚えのある声に変っていた。私はなんとなくその声の主の事を思い出した。


「そういえば、あの人幽霊苦手なんだっけ......。意味わからん。徘徊者に囲まれてるくせに、幽霊は無理って......」


配信で聞き取れないくらいの小声で愚痴りながら、私は声の主である私の推しの方へ向かった。そこには、白く半透明な身体と闇黒としか言い難い顔の幽霊が数体、男に群がっていた。


「お、おまえ! また来やがって!」


『助けに来てやった子に言うセリフ!? いいから、じっとしてなさい!』


そう言えば、幽霊系のモンスターって特殊魔法じゃないと倒せないんだっけ?

えっと、たしか......。


『あった! 光の指輪! これ結構高い割に、消耗激しいのよね。後でちゃんと請求してやるんだから!』


武器が鞭と言う縛りの中、私が着目したのは魔法付与エンチャント。特に布材は魔法を通しやすいから、鞭と相性がいい。だから、指輪はよく集めていた。こんなところで役に立つとは思ってなかったけど。


『悪霊退散!! そりゃそりゃそりゃ!!』


指輪の魔力で、白く光る鞭を縦横無尽に振り回すと、幽霊はその光に触れるごとに消滅していく。普段は触れることもできないそいつらを、鞭で縛り付けて雑巾を絞るように引き締める。


『ようやく見つけた、なにしてんの? おじさん』


『ま、まじでドーナツさんじゃん......。フェイク動画じゃなかった⁉』


『だから言ってんでしょ? 嘘じゃないって』


『う、うん。ごめん......。でも、誰もこんなの信じられないのはわかるっしょ? だって、こんな......。え、やっぱごめん。本物?』


そう言ってふうりんちゃんはドーナツホールの頬をつねる。彼は痛そうにしてから、彼女の腕を振り払った。


『うわ、本物ガチぢゃん......』


『そ、これがガチなんだよねぇ......。そんで、おじさんはなんでここに?』


どうして私はこうも推しを前にすると、ぶっきらぼうになってしまうのだろう。


『いや、食料を取りに......。そこで、幽霊と出会ってしまって......』


『それで動けなくなっちゃって、女の子みたいな声出して泣き叫んでたと......。私らいなかったらどうしてたのよ。ていうか、いつもはどうしてたのよ』


『そもそもここは幽霊のでねえ範囲だった! そういうのは全部把握してる! 俺はここの住人だぞ! ......クソっ、リサーチ不足だったか?』


『そ、れ、で?』


『な、なんだよ! ありがとうって言えばいいのかよ! ......。ありがとうございますッ!』


少し怒りをこもった感謝だったけど、推しの慌てふためく姿を見れたのでよしとするか......。


『うむ。素直でよろしい』


ふうりんちゃんについていた撮影班も、ホッとしたような声を漏らしていた。みんな、彼が生きていることを半信半疑でいたのだろう。そらそうだ。私も自分がこの目で見たはずなのにそうだったんだ。みんなが一息ついたのも束の間、配信の終わりを示す合図が私達に送られた。


『じゃあ、ドーナツさんの真相も分かったところで、今日はこのあたりにしたいと思います! 面白かったと思ったら、拡散、フォロー! 後、つばっちゃんのチャンネル登録もよろしくね!? じゃあ、おつーりん♪』


『お、おつーりん?』


彼女に乗せられ、配信は幕を閉じた。後は変えるだけだ。配信が終了しても、帰るまでがダンジョン探索だ。







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