夢うつつの狭間で語られた数々
syuシュ
序 呑まれた無
今もたまに、あの夢をみる。
光無し、音無し、色無し。ただ、静寂の暗闇。
何も考えられない無意識の中。
突然、
背後から腰を抉るように刺された。
冷たい金属の何かが、皮膚を切り裂き、スッと貫く感覚だけが、ありえないほど鮮明だった。
空気を切る「ザクリ」という生音が耳にこびりつく。
血が噴き出す感覚はないのに、代わりに何か熱いものが臓腑から引き抜かれていく気がした。
内側から崩れるように、脚が言うことをきかない。
倒れそうになったとき、鉄の欠片が撫でるように抜けかけ、また深く突き立てられた。
背中をゆっくり這い回るように抜けかけては、無慈悲に何度も刺してくる。
そのたびに、冷たい感触が奥を探り、くすぐるように、弄ぶように、無遠慮に命の光を絡め取っていく。
痛みはなかった。だからこそ、逃げられなかった。
意識が暗く沈んでいくのを感じたまま、目を覚ませない。
ただ、全部を吸い尽くされるまで続く。
力が抜けた。膝が崩れた――でも終わらない。
何度も、何度も繰り返す。
刺されるたびに、意識が少しずつ、確実に削がれていく。
ついに息が絶えた瞬間、パッと目が覚めた。
心臓が跳ねていた。
喉がひゅうひゅう鳴るほど荒く息をしていた。
それなのに、腰の奥から滲むような痺れが這い広がる感覚だけが、ねっとりと絡みついていた。夢だったはずなのに。
何度も同じ夢を見たが、後ろの正体は分からないまま、何かが静かに朽ちていく感触だけが残る。
今度こそ、本当に息を引き取るのか。
それとも、無に呑まれた心はもう、とっくに乾き切っていたのか。
――寝るのが、少し怖くなった。
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