番外編『皇太子の悩み』
「――で、どうすればレイナは俺と復縁してくれると思う?」
皇太子執務室で、カイルは側近中の側近である老騎士、コンラートに真剣な顔で尋ねた。
コンラートは心底面倒くさそうな顔で、巨大なため息をついた。
「殿下……そのご質問、今月に入って何度目か、お分かりでございますか?」
「何度だろうと構わん!俺は真剣に悩んでいるんだ!」
「はぁ……。結論から申し上げますと、無理です」
「即答するな!」
カイルは机を叩いた。しかし、コンラートの表情は変わらない。
「レイナ様は、もはや殿下や王国の枠に収まるようなお方ではございません。彼女はご自身の力で、聖域という一つの国を築き上げられたのです。そんなお方が、今更窮屈な王妃の座に戻られると、本気でお思いで?」
「ぐっ……しかし、愛があれば……」
「殿下がレイナ様を愛しているのは、よーく存じ上げております。ですが、レイナ様が今、殿下に向けていらっしゃるのは『愛』ではなく、『信頼』でございましょう。それは、ビジネスパートナーに対するものと、何ら変わりません」
「ビジネスパートナー……」
コンラートの的確すぎる分析に、カイルはうなだれた。
彼は他の側近たちにも、同じような相談を持ちかけてみた。
若い文官には、「レイナ様のような自立した女性は、束縛を嫌います。殿下が王である限り、対等な復縁は難しいのでは?」と冷静に分析された。
女官長には、「カイル殿下も、もう少しレイナ様のお気持ちを汲んで差し上げてはいかがでしょう。彼女が一番幸せな形を、尊重するのが本当の愛ではございませんか?」と、まるでお説教をされた。
そして、最後に望みをかけたのは、辺境から連れてきた自警団のリーダーだった。武骨な彼なら、何か突破口をくれるかもしれない。
「なあ、どうすればいい?」
「はて……どうすれば、とは?」
「レイナの心を取り戻す方法だ!」
すると、リーダーはきょとんとした顔で言った。
「いや、無理でしょう。あの方の隣には、フェンリル様がいらっしゃいますし」
「……は?」
「我々辺境の民の間では、レイナ様とフェンリル様こそが、真の番(つがい)だと認識されておりますので。殿下は、まあ、その……愛人……と言いますか、便利な協力者……と言いますか……」
「だ、誰が愛人だッ!!」
カイルの絶叫が、王城に響き渡った。
全員に「無理です」と言われ、挙句の果てには神獣の愛人扱い。皇太子、改め国王カイルの悩みは、国政よりもはるかに難解で、終わりが見えなかった。
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