トラック2「準備運動-1」


「ほい、んじゃ横んなりなー。ごろーんよ。はい、ごろーん」

//SE 太ももをポンポンと叩く音


(声が少し高く、ニヤつきが隠せていない)

「んー? 何でって、言ったじゃん。『ウチの怪談聴いてねー』って」


(耳に近づけて)

「これはその準備だよ? 耳の中キレイキレイしないとさ、聞こえないじゃん?」


//SE 慌てて机にぶつかったような物音


「うーわ。めっちゃ敏感じゃん。こりゃ掃除したらどうなっちゃうんだ?」


//SE 載せた頭と衣服が擦れる音


「ん、頭もうちょいこっち寄んな。落ちるよ? なに、この期に及んで照れてんの? ははっ、可愛いかよ」


「んじゃ、始めるよ。あんま動かんときー」


//SE 耳の外側、耳殻を綿棒で撫でる音


「あー……。もしかしなくても耳かきは苦手だったりする? けっこービクついてるけど」


(返しに困惑し、最後はやや引きながら)

「え? ASMRで毎晩聴くくらい好き? いやいや、それ耳かきしてないから……」


になっちゃうのはいーけどさ、ちゃんとやりなね。耳掃除した方がさ、音もクリアに聞こえるじゃん」


(漫才のツッコミのように鋭く)

「いや、わかれよ。今のは『うん、そうだね』って頷く場面っしょ」


「代わりと言っちゃなんだけど、耳かきくらいならウチがやったるからさー」


「毎晩? いや君が良いなら、別にいいけど……って、なに変なこと考えてんのさ」


(少し後悔が滲むような、沈んだ声色で)

「……そーいうんじゃないっしょ? ウチら」


「──あ、奥の方やるから。危ないから今から喋んないでね」


//SE 耳の穴をで掃除する音


(なぜか嬉しそうに)

「おっ? 気づいた? 気づいちゃった?」


//SE 耳かきを引き抜く音

「そ。竹耳かき。煤竹すすたけのいーいヤツ。色味が渋いぜ」


//体を揺さぶり、頭上から降る声が左右にブレる

「嬉しかろ? おら何とか言えよー」


//揺すっていた手を止める

「って、耳かきするから喋んなってウチが言ったんだったね。なるほどなるほど……。今は一方的にウチが語れるってわけだ」


//SE 再び竹耳かきが耳へと入り込む音

「ま、今更何を語るんだよって感じだけど」


「君の方はある? 言いたいこと。こんな夜中に呼びつけて、怖いの苦手な君に怪談聞かせよーとする女に」

「ウチはねー、あるよ。君に言いたいこと」


(おちゃらけていたのに、急に真剣な声音になる)

「──あんがとね。こんな変な女に構ってくれてさ。本当は」


「小中高と一緒だったわけじゃん? そりゃもう思春期ど真ん中も含んだ、貴重な青い春ですよ。高い空よりも深い海よりも真っ青なくらい、青くあるべきなわけよ」


(他人事のように白々しく)

「そんな大事な時期にさ? こんな女に見つかっちゃったわけでしょ? とんだ災難じゃん。田舎のオジジも『お前、アレに魅入られたんか!?』って騒ぐレベルじゃん」


「で、女の子に気に入られたぜ! やったね! ──ってノリでもないじゃん。デート行ったりとか、あー……まぁ、いちゃつくようなこともなかったじゃん」



「周りの子はさ、彼氏と何処そこ行ったーとかクリスマスは二人でーとかやっとるわけですよ。なんか周りと比べて色気なし、味気なしな付き合いなのよ」


(一般的な男女交際を持ち出し、恥じらいながら)

「……男の子的には? 辛いのかなーとか思ったりしてクリスマス誘ったりしたけど、君ってばまったくそういう雰囲気になんないし」


「結局ゲーム三昧。イヴと当日併せて99年の内の半分くらいまで進めて、はいサヨナラ」


(またツッコミのように食い気味に)

「いやいいのか? めっっちゃ楽しかったけど、君に我慢させてないか? とか、ガラにもなく当時は悩んでたよ」


//SE 耳かきが引き抜かれる音


(ちょっとだけ耳元に寄って)

「だから、ありがとう。今でもこーやってバカやってくれて嬉しい」


「……あー、そろそろ仕上げかな」


//SE 耳にと吐息がかかる音


「はい、いっちょ上がり──って、ちょいちょい。何立とうとしてんの」


(心底呆れ果て、やや語気を荒らげて)

「はぁ? 君の耳は片っぽしかないん? ちゃうでしょ。ほれ、逆側いくよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る