第13話 ついに配信! 星空の下でロマンティック!

「さーて、今から撮影するぞー」


 ついに、この時間が来ちゃった!


 満点の星空の下。私たち四人は、薄い長そでを着て外に出た。五月初旬の夜って、まだまだ寒い。私の服、ちょっと薄いかも……。もう一枚、余分にもって来れば良かった。


 フワ


「どうぞ、ゆの」

「!」


 柔らかい物が肩に掛けられる。見ると、黒色のパーカー。厚い生地のおかげで、体温が逃げないから寒くない。


「これで寒くない?」

「玲くん、ありがとう」


 私の横に立つ玲くんがニコリとほほ笑む。つられて私も、暖かな服をキュッとつかんだ。ん? でも待って。もしかしなくても、この服って……玲くんの私物⁉


「わ、私は大丈夫だから! 玲くんが着て? ね?」

「俺は寒くないから気にしないで。それに……その服、俺の寝る時の服なんだ。こんな物しかなくてごめんね」


 つまり玲くんのパジャマ⁉


 申し訳なさそうに笑う玲くんを見て、胸の内がこみあげる。玲くんって、本当に優しいなぁ。思えば、クラスでも玲くんは人気だ。クールだけど、カッコいいし優しからって。

 玲くんって、皆に優しいもんね。例えば学校の人。例えばクラスの人。例えば動画のリスナー。例えば……私のお姉ちゃん。


 玲くんには何でも相談するお姉ちゃん、か。そう言えば、お姉ちゃん。今頃なにしてるんだろう?


 家で大人しくしてくれていたらいいけど……。あ、私の部屋にいるなら、ついでに課題やってくれないかなぁ。


 最初は〝何で私が仮ステラなの〟って思ったけど……。でも今ここにいるのも全て、おねえちゃんのおかげなんだよね。


 隣に立つ玲くんを見上げる。玲くんイケメン具合と、彼の向こうに広がる星空が重なって、まるで絵画を見てるみたい。


〝入れ代わるなんて無理〟って思ったけど、今となっては、やって良かった。玲くんと一緒にいられるし、玲くんの新たな一面をいっぱい知れたもん。


 お姉ちゃんに感謝しないと。そうだ、駅でお土産を買って帰ろう! お姉ちゃん、甘い物好きだったよね? ついでに私の分も買おう!――ルンルンと心を弾ませる中。肝心なことに、今さら気づく。


『もしかして〝あの事〟で悩んでる?』

『ステラの気持ちも、分からなくはないし』


 玲くんが言っていた、お姉ちゃんの事。そもそもお姉ちゃん、どうして「代わって」って言ったんだろう。


「……星、キレイに写るかなぁ」


 ポケットからスマホを出し、夜空にかかげる。お月様と一緒に輝く星たちをお姉ちゃんに送りたくて、いくつか写真を撮った。もし何かに悩んでいるなら、星空を見て、少しでも元気になってくれたらなって。お姉ちゃん、喜んでくれるかな。


「よし、時間だな。全員集合しろー」

「じゃあ、行こうか。ステラ」

「うん!」


 まずはオープニングから撮影! 三脚にカメラをセットし、顔が写らないよう全員が横に並ぶ。


「特別企画、星空の下でロマンチックなセリフを言おうー! いえーい!」


 録画中を知らせるランプが赤く点滅し始めると、ヤタカがタイトルコールしながら手を叩く。ライブ動画、配信開始だ!


「この企画は、ステラが考えてくれたんだよね?」

「うん! せっかくの野外撮影だし、ヤタカやノアやリムチ―の、新たな一面を見たいなーって思って!」

「コメントがたくさん来てるよー。〝ステラちゃん、さすが!〟〝私たちリスナーの事よく分かってる!〟だって~」


「撮影モード」に入ったリムチ―は、ドライな性格を封印したみたい。素では信じられない明るい声で、話しかけてくれる。


「企画としては最高に面白いけどさ。俺らからすると、最高に恥ずかしいよな?」

「これは順番が重要になってくるよね」

「俺、真ん中がいい!最初と最後だけはぜったいヤだ~!」


 カメラの横に置いたパソコンを見ると、次から次にコメントが流れている。


「〝特別企画、楽しみです〟ってコメントきてるぜ。あと〝最初はリムチ―がいい〟だってよ。よかったな!」

「いやいや最後のコメは、絶対ヤタカが後付けしたでしょー⁉」


「リムチ―、観念して。ちゃんとリスナーからコメント来てるから」

「え、まじ? トップバッター……俺?」


 ガーンって効果音が聞こえそうなリムチ―に、またコメント欄が湧く。良かった、みんな盛り上がってくれてるみたい!


 カメラの前にリムチ―だけ置いて、私たち三人はフェードアウトする。「ちょっと心の準備!」とリムチ―が言ってる間に、こっそりスマホを確認した。あ、お姉ちゃんから返事が来てる。おねえちゃんの事だから「星空きれい~」とか「お月見団子食べたい~」とか。返事は、そんな感じだろうな。

って、思っていたのに。


【ありがとう、ゆの。私、ようやく決まったわ】

「……え?」


 目に入ったのは、よく分からない文章。ようやく決まった、って何? やっぱりお姉ちゃん、何かに迷っていたの? 急いで「何かあった?」と返事を……しようとして。この場に「ワッ」と笑い声が響く。


「り、リムチ―!〝僕と一緒に星になって輝こう〟って。なんだよ、それ!」

「いーじゃん! 二人で宝石になろうねってことだよ!」


「いや、余計に分からないよ」

「なんで⁉ ロマンの塊じゃん⁉」


 膨れっ面で戻ってくるリムチーと交代で、ヤタカから「次はステラな」と名指しされる。あ、メールの返事……いや、今は配信に集中しなきゃ。終わってから返事を打てばいいんだし!


「ステラ? どうかした?」

「う、ううん。何でもない!」


 なかなか移動しない私を、玲くん含め皆が見る。……そう。今は撮影中。

 私は、Neo‐Flashのステラ。

 動画でのステラは、いつもカッコよくて、可愛くて、センスがある。臨機応変に対応した発言が出来る、チームの大黒柱的な役割を担っている。だから私も、こういう時こそしっかりしなきゃ!


「こ、心の準備してたの。本当よ?」

「はいはい。分かったから早くいけ、ステラー」


 ヤジを飛ばされながら、カメラの前に立つ。深呼吸、スーハ―。画面を見ると「ステラちゃん、ファイト!」って応援コメントが、たくさん届いている。


……うん。落ち着いた。今の私なら、できる!


「〝君は一人じゃないよ。私がいる。あのお星さまみたいに、一緒に手を繋ご?〟」


 無事に言い終える。すると……緊張が、また戻って来た!


「以上です!」と、逃げる形でカメラからフェードアウトする。はぁ~、いくら顔が見えないとはいえ、緊張するよ! でも……セリフを噛まなかったよね? よし、やり切った! 私、今すっごい満足してる!


 自信満々で皆の所へ戻る。だけど、何やらヒソヒソ話が繰り広げられていた。


「審議ちゅー。今のセリフって恋愛? 友情? どっち~?」

「俺は、どっちとも違う響きに聞こえたよ」

「ははーん。さては逃げたな? ステラ」


「えぇ⁉」


 すっごく頑張ったのに、そんな反応されるなんて! 今度は私に、ガーンって効果音がつきそう……。落ち込んでいると、怜くんの黒い瞳が私を向く。


「ステラ、誰のことを思って言ったの?」

「っ!」


 二人きりで練習したセリフと、さっきのセリフが違う理由を不思議に思った玲くんが、穴が開くほど私を見ている。そうなの、実は……。さっきのセリフ、咄嗟に思いついたの。


 この配信を、きっとお姉ちゃんが見てくれてるんじゃないかって思って。今この時を悩んでいるお姉ちゃんは、一人で私の部屋にいる――そう思うと、いてもたってもいられなくなった。それに、私のファンには女性リスナーもいる。だから必ずしも「恋愛のロマンチック」に限定しなくても良いかな?って。そう思ったの。


「ステラって姉御肌だから、男女のリスナー皆を引っ張っていくセリフにしたよ。それはそれでロマンチックでしょ?」

「……うん。良いセリフだね」

「ふふ。でしょ!」


 玲くんは、それ以上は追求してこなかった。もしかして、私が心の憶測で抱えている「お姉ちゃんへの心配」を汲み取ってくれたのかも。思えば、玲くんはただ一人でお姉ちゃんの悩みを聞いているんだよね。私よりも、何倍もお姉ちゃんの心配をしてるんじゃないかな。


……なんでお姉ちゃん、玲くんにだけ相談するんだろう。もしかして、やっぱり二人は――


「よーし、次は俺だ! お前ら、ちゃんと聞いておけよ!」


 私たちを置いて、ヤタカが前進する。同時に、リムチーが何やら配り始めた。


「ステラ、はい耳栓」

「わぁ、ありがとー」


「ちゃんと聞けって! 耳栓するな!」


「リムチ―、俺にも」

「あいよ~」


「だから耳! もっと風通しよくしろよ!」


 しぶしぶ皆が耳栓をとると、ヤタカがニヤリとほくそ笑む。そして、誰かを抱きしめるフリをしながら、

「愛してるぜ!」

 盛大に、愛の告白をした。


「どーよ! 俺のロマンチック!」

「「「……」」」


 どや顔でフェードアウトするヤタカに、皆「ブー」とブーイング。コメントには「ZZZ」が並んでいて、退屈と言わんばかりの反応だ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る