御報告

調査結果が出揃いスティリア・アーゼンハイドの遺体も無事届いたため依頼人を呼び出した。

因みに呼び出し方法は僕の飼っている鴉に手紙を運ばせる、それだけ。

普通の伝書鳩や鴉よりずっと早く遠くまで飛べるのでとても優秀な子達だ。

勿論この子達にも限界はあるから範疇を越えれば僕が直接手紙を届けるが、なるべくここから動きたくないからな、鴉達に任せるのだ。

早朝に手紙を届けて実際依頼人が来たのは夕方、日が傾き始めた頃だった。

派手なドアベルの音と共に姿を見せる。

「やあ、いらっしゃい。こっちで話そう」

「…………ああ」

その姿はたった3日ぶりだというのに以前より随分と疲れ切った様相で結果というより経過を聞きに来たような雰囲気だった。

以前と同じようにカウンター横の廊下を挟んだ先の小部屋でソファに座り、対面する。

「さて、今日は依頼の結果をお伝えしようと思ってね」

僕がそう言うと、やはり彼は驚いた表情になった。それはそうだろう。

普通人探しの依頼は半月から1ヶ月ほどかかる。

早いところでも7日から14日。

3日で終わるなんてとんでもない、と思っていることだろう。

「…………姉は」

「残念ながら、亡くなっていたよ」

「……っ………………そうですか」

彼はそのまま立ち去ろうとする。

「待て待て。なにも僕は投げ出したわけじゃない。きちんとご遺体を回収して、綺麗に保管させてもらってるよ」

「……………」

僕の言葉に、懐疑的な視線が向けられる。

世の中の何でも屋とか名乗る奴らは卑怯な奴が多くて「探したが手掛かりが無く見つけられなかった」だの「見つけはしたが既に亡くなっていた」だのと嘘の結果を伝えることが多い。

特に人探しの依頼じゃとんでもなく多い。

だから基本この手の依頼は受けないところも多いし、受けて前金を取るだけ取って投げ出す悪徳業者も多い。

依頼する側もその辺の事情は知っていたり周りから言われたりするので、何でも屋より正式に騎士団や公的自警団という領主管轄で結成されている各地域の何でも屋みたいなところに頼む者が多いのだ。

まぁとにかく、彼は取り敢えずソファに座り直し、話の続きを聞くことにしたらしい。

「それで、調査結果をここに纏めさせてもらった。端的に言うと、ユーメリア・ドゥービット個人の妬みが原因だ。娘の我儘を愚かにも聞き入れドゥービット家が手配しアバルバという少数民族の生贄にされかけたというわけだ。結果生贄よりはまだマシな段階で亡くなったようだが。それを読んだ上で質問があれば答えられる限り答えよう」

僕は彼に調査結果をまくし立てて口をつぐんだ。

正直書ける限りのことは書いたしこれ以上話したくもない。奴らのことは特に。

彼は暫く僕が纏めた調査結果を読んでいた。

その顔はずっと緊張に満ちた苦しげな顔で、最後には恐らく憎しみで満ちていたと思う。

「…………姉は、どこに」

読み終えて最初に僕に尋ねたのは、姉の所在。

どこまでも姉の心配をしているであろう彼は本当に家族思いの人間なのだと思う。

「着いてきな。上にいる」

こことカウンターの間にある廊下の先には階段が続いている。

本来は僕の住居として使っていたが、今ではすっかりカウンター暮らしが染み付いてしまって客間と物置になっている。

階段を上がって左手側のドアを開けると広々とした客間がある。店内とは違いここは常に陽光が差すようにしてあるためとても明るく、暖かい空間になっていると思う。

部屋の左手側、丁度窓のそばに大きめのベッドがある。僕はそこを指差した。

「あそこにいるよ」

彼は早足で駆け寄り、真っ先に脈を確認するような動作をした。意味がないというのに。

何度も確認し、心臓のある位置に耳を押し当て、なんとか生きている証を見つけようとしていた。それでも彼女は死んでいる。

彼はその場で崩れ落ち、静かに泣き出した。

僕はドア近くの壁に寄りかかり、何の気なしに子守唄を歌った。

アーゼンハイドのルーツは現トラシュヴァルツ王国の北側、今は周辺地域に併合され消えてしまったが、ハルミトンという小さな地域から始まっている。

その地域には子供からお年寄りまで皆が知っている子守唄があった。

今でも知っているのはそれこそアーゼンハイド家の者ぐらいだろう。

懐かしい歌を聴いたからか、暫くすると彼はそのまま眠ってしまった。

「全く、仕方がないな」

そのままでは起きたときに体の至る所が痛むことになってしまいそうだ。

僕はスティリアが眠るベッドの隣にもう一つベッドを置き彼をそこで眠らせた。

部屋全体の明るさを少し落とし、静かにその部屋を出る。

彼が起きたら一つ聞いてみないとな。

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