男子高校生、終末現代ファンタジー。

めそぽた瑛琉

1日目:午前

 ォョに脳を焼かれた一般通過美術部のテスト返し中の妄想。情報祭り。

 文字数の変遷 6000→8000→10000→8000 かなり削りました。


 **


 聞いていると眠くなる声の理科教師が教卓の前に立つ。

「今日はテスト返却ですね〜見直しをして、次に繋げましょうね〜」

 クラスがざわめき出す。今日は期末テスト返却の日だ。来週から夏休みだと言うことも相まって、なんだかゆるい雰囲気だ。


「じゃ、1番の人、テスト取りに来てくださいね〜」


「あれ?今日は13番の木野さん休みですか〜?木野きの遥希はるきさん〜?」


 いつの間にか呼ばれていたらしい、クラスメイトに変な目で見られる。油断していた。


「すいません、木野です」


 慌てて取りに行く。案の定、平均点の63点。

 席に戻ると間髪入れずに、理科は学年一位、出席番号も1番の男、相川あいかわつとむが声をかけてくる。学力マウントこそ取ってくるこの男だが、俺はあまり嫌いではない。こいつ、隠れてオタクだからね、シンパシー感じる。


「ハルキ?で?何点だったんだ??」


 目元からニヤニヤが隠せていない。こいつ、嫌味がすぎる。こんなんでも顔はいいので、モテる。俺的な、この学校七不思議第2位。ちなみに1位はなぜか眠くなる理科の竹田の授業。こいつの授業だけ謎に眠くなる。


「うっせ、聞くなよ、この。平均だよ、ッ!?」


 その時、教室に大きな揺れが走った__その割に、教室内のものや人間はあまり揺れていないように見える__それに違和感を感じた俺は、慌ててクラスを見回す。

 そういえば、今日は7月5日。なんか災害の予言があったな、なんて呑気に構えていると、校庭から悲鳴が上がった。


 俺も、勉も、ほとんどのクラスメイトも、一斉に校庭の方を向く。唯一、理科教師は授業テスト返しに戻ろうと「静かにしてくださーい」と声を上げている。無敵か。


 そして、揺れがおさまってすぐ、窓際の席の陽キャグループの女が__神谷かみたに瑞穂みずほが校庭を見に行った。


 途端、悲鳴が上がった。悲鳴だろう神谷が窓の外を指さして座り込んでいた。


 流石に無視できなかったのか、竹田も神谷を気にし始める。

 そして、神谷が懇意にしている陽キャ男__名前忘れた__が何事かと同じように外を見ると、そいつも驚いたのか声を上げる。いつもみたいに騒ぐ時の態度は見る影もない。二人とも美男美女なのに、顔が真っ青だ。

 それに興味を持った野次馬たちが校庭を覗き込み、見るからにSAN値が削れている表情で戻ってくる。


「ハルキ、何かあったみたいだけど。なんだ、あいつら。そんなことより、あすにゃん大丈夫かなぁ…」


 こんなことになっても勉は平常運転である。おい、せめて神谷とかの心配しようよ。ちなみに、『あすにゃん』とは、勉の推しであるVtuber『翼日よくじつあすな』の略称である。勉はファンネームである『ハネナーさん』と呼ばれると機嫌が良くなる。お前も理科教師竹田も肝座りすぎだろ。


 たしかに、こんなことはこの17年間の人生の中で初めてだ。不謹慎だが、ちょっとラノベっぽくてワクワクする。


「なにかあったんかな?勉はどう思う?俺はゾンビパニックを推します。いや、現代ダンジョンもいいな…」


「うるさいぞ、ハルキ。俺も不安なんだ、こう言う時はあすにゃんを摂取するに限る。まあ、オタク的にワクワクする展開ではあるよな」


 そんな会話を交わしていると、ふと教室がうす暗くなる。今日は忙しい日だな。しかし、上を見上げても不思議なことに教室の蛍光灯はついている。不安を紛らわすために勉に話しかけようとするが、当の勉は横を見ると顔を真っ青にしていた。


「ハルキ、俺ら死ぬかも。ちょ、ほんと外見ろって」


「?、えぇ!?」


 窓越しに見た外には、バカみたいにでかい生物が、それこそファンタジーから現代に取ってつけたような化け物が闊歩していた。今、電車が化け物の大群にへし折られて食われている。空は、奇しくも俺の感情を表すように鮮血の赤に染まっていて。

 いつも見える景色__電車とオフィスビルと、青空の広がる駅前の風景__とは似ても似つかない。それこそ、アニメやラノベでしか見ない光景が広がっていた。


「なんだよ、これ……」


 呆然とするクラスメイト。今は4時間目。で、3時間目、俺たち2年1組は外で体育をした。秋の体育祭に向けて夏休み前から練習をすることに反感を覚えた記憶がある。その時はいつものままだったはず。

 俺が混乱していると、


 こんな時にも馬鹿はいるようで、能天気な__しかしよく通る__声が響いた。しかし、声色とは裏腹に、その内容は重要なものだった。


「みんなー!ちょっとこれ見てくれー!」


 といって自分のスマホを掲げたのは、吹奏楽部の森田もりた敬兎よしと

 吹奏楽部特有のはっきりした大声で自らのスマホの画面を読み上げる。


「これはKwitterクイッターの書き込みだな!今からオレがお届けします!

『街がやばい、化け物が私の家潰してた。許さないって思ってペンを化け物に投げたら貫通してビビった』これはOLの書き込みっぽい。

『なんか手から火が出た件、上司のカツラ燃やした』こっちはサラリーマンかな?

『明日誕生日なのになんか外やばそう、まあ引きこもっとけばなんとかなるでしょ』子供部屋おじさんもいるねー。ちなみに、みんなのスマホでも見れると思うぞ!

『#能力』でヒットしたぞ!こう言う投稿、かなり増えてるんだよ!

 でもこの状況で充電できるかわかんないからバッテリーは大事にした方がいいかもな!」


 いつの間にか理科の竹田はいなくなっていて、その代わり森田が音頭をとっていた。

 クラスの反応は大きく三つ。

 まず外を見に行った陽キャ組。聞く余裕すらなさそうだ。お大事にしてください(他人事)

 そして、次に見に行った野次馬たち。こいつらは少しは余裕がありそうだが、オタクではないので半信半疑といった感じか。こいつらがクラスの大半を占めている。

 して、俺たちのようなオタクなどの少数派ぼっち。サブカルチャーに触れてきたオタクだからか、場違いに浮き足立っている気がする。良くも悪くも命知らず。

 それに、森田。なんだこいつ。…まるで、


「しっかし、大変なことになったな、ハルキ?ハネナーとしてあすにゃんの安全を確認したいが、なんせ非常時だからな」


「だなー、これじゃ配信どころじゃない…なあ、勉?」


「なんだよアニオタ?自殺する気になったか?」


「俺、これでもすげー不安なんだよ。不吉なこと言うなよな、で、やってみたいことがあるわけ。手伝ってくれん?」


「んだよ…」


 と言いつつ、手伝ってくれそうな勉氏。神よ。

 俺は勉に小声で作戦を伝える。

「さっき森田が言ってた内容にさ、ファンタジー的内容あったじゃん?それこそ『現代ファンタジー』みたいな」


「あー、あったね。それがどうしたんだ?まさかするわけじゃないよな?流石にお前そこまで中学生じゃないよな?」


「そのだな。俺はやると決めた」


「まあ、いいよ。こうなっちゃクラスカーストなんて無いしな。ハネナーとしてあすにゃんに勇気を見せねば」


 トゥンク…勉さん素敵♡…でもなぁ…BLはなあ…ちょっと…


「遠慮は結構。一分後に決行だ」


「了解、軍曹ハルキ


 来る一分後。俺は席から、ガタンと音を立てて立ち上がり、左手を突き出す。少々遅れて勉も同じことをする。幸か不幸か、神谷と森田が騒いでくれたおかげか、席を立ったくらいじゃ目立たないぐらい、クラスはうるさい。喧嘩の声、泣き出しそうな声、も、たくさん。

 息を吸い込んだ俺達。割と大きな声__授業で発表するくらいの音量__で一斉に、異口同音の言葉を口にする。


「ステータスッ!!」

能力スキルッ!!」


 こうなりゃヤケだ。好きなだけやってやるよ!!

 しかし、視界にはなんの変化も現れない。そう思った矢先、横から少し上擦った親友の声が飛んできた。は、ある意味外の光景よりインパクトが大きかった。


「おいッ!!ハルキィッ!!こっち見ろッ!!あすにゃん!!今飛んでいくよ!!!!」


 その発言で、クラスの雰囲気が変わる。特に男子の。


 勉は美少女になっていた。それも羽が耳から生えているタイプの。



 は???


 ふざけんなよ。

 俺もやる!!


能力スキル来い!!強いの環境来い!!!待ってろキャンパスファンタジーライフ!!!」


 **


 大声で叫ぶと、視界が白くなる。フラッシュを直視するより辛い。閃光弾かよ。

 目が見えるようになると、そこには無数のパネルが嵌め込まれた壁が並んでいた。いうなれば、個人経営の書店のSF版、みたいな。

 一番近くにあったパネルを押してみると、近未来的なホログラム演出とともに項目が開いた。


 ☆☆


項目ステータス

【名前】『木野遥希』

【性別】『男』

【種族】▼以下選択可能

 ・人間(現種族)

 ・獣人(羽族、猫族、竜族、犬耳族、銀狼族、森兎族、etc…)

【職業】『学生』

【所持能力スキル】▼

【固有能力スキル】▼


【情報】


 ☆☆


 こんなワクワクするものを見せられて我慢できるオタクがいるのか。

 いや、いない(反語)

 この画面から分かることはいくつかある。

 まず、名前と性別はいじれないこと。

 つまり、勉は美少女ではなく女顔の美少年になった…ってコト!?

 それはそれでイイ…。

 俺が次に気になったのは、ずばり『能力スキル』の項目。

 オラワクワクすっぞ!…といっても、よくわからない。押しても反応がないし、スワイプ、ダブルタップ、二本指操作…色々試してみたが、反応はなかった。

 これはきっと自分で育てていくタイプの項目。


 一番気になったのは、最後の『固有能力スキル』だ。

 SA◯からラノベに入った身として、キ◯ト君のような固有スキルには憧れがある。中学1年生の頃、剣道の授業でスターバーストストリーム二刀流を練習して親に電話が行ったんだっけか。懐かしい。

 まあ、イメージ通りだろう。


 して、目先の問題は『ここから出られない』問題である。

 もしかしたらこの空間、一方通行アクセラ◯ータなのでは疑惑がさっきから出ている。

 独り言を喋りながら歩き続ける学生服…控えめに言って不審者ですね(確信)


 ほんとどうしよ…というかもう一度あの画面ステータスをみる方法もわからない。これが詰みですか。そうですか。

 俺はもう一回ステータスを見るため、印を組んだり、パントマイムしてみたり、ひたすらに走り回ってみたり、シャドーボクシングしてみたり、はたまた「不幸だーーーッ!!」と叫んでみたり…格闘すること体感30分。

 俺は学校のことなど忘れて疲れ切っていた。


「出らんねーじゃんよ…」


 このままこの謎空間で餓死するとか嫌すぎる。


「待てよ…」


 まだ最初の方法叫ぶやつ試してない!!


「スキルボード来い!!」


 すると、もう見慣れたホログラムが、ヴンッ、と音を立てて現れる。

 来た。俺の30分どこ?ここ?


 ☆☆


項目ステータス

【名前】『木野遥希』

【性別】『男』

【種族】▼以下選択可能

 ・人間(現種族)

 ・獣人(羽族、猫族、竜族、犬耳族、銀狼族、森兎族、etc…)

【職業】『学生』

【所持能力スキル】▼

【固有能力スキル】▼


【情報】


 ☆☆


 よく見ると、重要そうな項目として【情報】が下の方に鎮座している。置き場所が悪いよ!!運営さん!修正して!!


【情報】部分をタップしてみると、また興味深い文章が湧いた。


【情報】

 ☆種族

 →各種族によって得意不得意が異なります。一度決定されると変更は不可能です。慎重に選択しましょう。

 ☆職業

 →あなたが達成した物事やこれまでの経験、周囲からの認識によって変更が可能になります。固有の職業は強力です。自分で道を切り開いていきましょう。

 ☆能力スキル

 →あなたの経験が能力に昇華されます。きっと過去経験があなたを助けてくれるでしょう。


 、、、んだこりゃ。ゲームか。ざけんな。

 ほんとふわふわしてんなあ。もっと具体的に書いてくれよ…これも修正オネシャス。


 ま、言語化はできないけどなんとなくわかった。

 要は、選択した種族は以降変更不可能で、職業は変更可能。この辺は現実に結構忠実な感じだ。無理やりファンタジーな感じじゃないのが俺的ポイント追加好印象


 最後に、やんわり理解できたけど使いこなせる気がしない能力スキル

 過去の経験や周囲の評価によって基礎能力の底上げや特殊能力の後付け、というようなニュアンスだ。きっと過去にスポーツ等の経験があれば経験に見合ったチカラが降ってくるんだろう。


 ていうか、これスキルボード、流石にオカルトだよな?何もない空間からホログラムが出るなんて、俺が知る限りあり得ない。そんなこんなで不思議ポイントを頭の片隅に置いておいたところで、目先の問題を思い出す。


「帰れねぇ」


 そう。この空間、歩いても歩いても、壁、壁、壁。

 なんの変哲もない白い壁が、見える限りずっと続いている。

 音すら自分の声と足音くらいしか聞こえない。

 現実逃避も兼ねて"なぞのばしょ"か…?いや、"真理の扉"か…?なんて考えていると、女の声が頭に響いた。その声をなぜ女と思ったのかは分からないが、とにかく声が響いた。


 姿


彼の者キノ ハルキ祝福ギフトを。よい人生みらいを」

 その声を聞いた途端、目の前の景色が遠ざり


 **


 目を開くと現実きょうしつに戻っていた。見る限り時間は進んでいないことに安心し、席に座ろうとすると、美少女、いや勉に声をかけられる。

 オレっ娘…ですか…なんと素晴らしい…おっと危ない。TSして精神的BL展開になる物は苦手なんだ。

 俺が美少女ツトムを前に硬直していると、勉が口を開いた。


「なあハルキ」


「なんだよ、リアルハネナーさん」


「お前、あの画面ステータス見たよな?あの、種族とか書いてあった、あれ」


「ああ、見たぞ。俺はまだ選択しないまま戻ってきたけどな。お前どうせ羽族だろ?」


「はぁ?にわかが。羽族と天使族は違うぞ??これだからお前は…」


 待ってくれ。今こいつなんて言った?羽族じゃない?それクラスの中で言っていいのか?こいつは自分の見た目に無頓着なところが女子に人気だった。種族見た目が変わってもあんま変わんないな。


「なあ、勉。ちょっと外出ようぜ」


「おk。あの、ちょっと外出てきます!森田さん、あとはよろしくお願いします」


 勉のギャップがすごい。なんだこいつ。意識が社会人なんよ。思考は中学生の癖に。

 勉と廊下に出て、屋上につながる階段を登る。屋上は逃げ場がないので、階段の踊り場で話すことにする。

 いつも人気ひとけの無い踊り場は、いつにも増して音が響く。


 埃を払って腰を落ち着けると、早速勉に話を振る。


「なあ、勉。その、さっきまでの俺、どうだった?光ってたりしてたか?」


「うーん、光ってなかったぞ。それよりなんで俺を連れ出したんだ?俺と逢瀬でもお望みだったりする?」


 勉がニヤニヤしながら俺の腹を小突いてくる。やめろ、その外見ガワでそれをやるな。


 俺は彼女無し=年齢の悲しき男!!!

 最悪の場合性的に見てしまう恐れがある。


「やめてくれ、本当に…俺が聞きたかったのは、勉が俺のステータスボードを見られるか、だな」


「…ステータスボード?あ、もしかして光る板のことか?」


 名称の共有してないの忘れてた。

 俺がつい先ほど経験したことを包み隠さず勉に話すと、終始頷いていた。

 しかし最後の『謎の声』。これだけは一致しなかった。勉は聞いていないらしい。ちょっと前にネットで見た『見る人によって内容が変わる動画』みたいな違和感を感じた。

 俺はホラーが苦手なので深掘りしなかったが。

 こういうの怖いよ…やめてよ…


 して、勉が言った。


祝福ギフトって今見れるのか?ゲームみたいな初心者スタートダッシュボーナス的なやつか?それともアイテム系かな?」


 俺ともあろうものが失念していた。


「ステータスッ!!」


「プッ、ブフッ」


 ちょっと気合いを入れて言うと、隣から吹き出す音が聞こえた。

 目の前に、半透明の板が現れる。大きさはだいたいパソコンの画面くらい。きらきらのエフェクトがついてる…きれい…。本来の目的を思い出し、プレゼントボックス的な項目を探す。


「あははは!!おま、ッ!!」


 勉には見えていないようで、空中でパントマイムしているように見える俺の姿が面白いのか笑い転げている。

 こいつ、あとで殺す。と思いつつステータスボードをしばらくの間5分ぐらいいじっていると、例のブツプレゼントボックスらしき項目を見つけた。


「おい、見つけたぞハネナー」


 つとむの方を見ると、脱力し、虚な目で上を向いて固まっていた。


「どうしたハネナー? あすにゃんでもいたのか?」


 話しかけても反応がない。おかしい、こいつは無視とかそういうドッキリはしないタチなのに。


「おい!!何があった!!返事しろ!勉!!」


 結構力を込めて肩を揺らす。して、後ろから聞きなれない声。勢いを伴って振り返る。


「彼はキミの『シンユウ』なのかい?」


 少し煌めいて見える薄い金色の髪。10代前半、外見は中学生くらいの中性的な少年。どこか焦点があっていない、黒と藍、夜を湛えたような瞳。パーカーとマフラーが一体化したような、でもなんだかメタリックさを感じさせる、学舎には少々場違いな服装。


 おかしい、この学校は結構新築だぞ?もうバリケードやらが破られたってことか?頭が追いつかない。


「…俺はハルキ。お前、こいつに何かしたのか」


 いきなり現れた、年齢立場能力不明の怪しい存在。でも、目が離せない。親友が心配でならない。絞り出した声。声と言うにはか細かったが、会話は成立した。


「驚かせてしまったようで申し訳ないね。僕は…そう、イスカ。ただのイスカ。ここに来た理由?なんとなく、かな。僕は直感でここに来た」


「外はどうしてこうなってるのか知って…いや、まずお前、どうやって入って来た?」


 おかしい。よく考えたらここは学校。公立といえど、不審者やら災害やらのためのバリケードぐらいは使っていないわけがない。それとも、もう教室まで化け物どもが入ってこられるぐらいに?


「不法侵入じゃないから安心してよ。どうやって?んだ」


「飛んで?一体何を…」


 俺がその言葉を言い終えることはなかった。否、できなかった。イスカがボソッと、本当に小さな声で呟いたのを聞き逃さなかったからだ。


「…しゃがんで」


 突風。直後、俺の頭上をナニカが通り過ぎた感じがした。この期に及んで、ハゲなくて良かったと思ってしまった。

 今、何が起きた。イスカの方を見るに、俺が後手だったようだ。勉がいた階段は残骸しか残っていなくて、屋上に行くための階段が吹き抜けみたいになっていた。外を覗き込むなんて命知らずなことはしないが、イスカと勉が見当たらない。


「とにかくステイ、クール…っとォ!?」


 これがなかなか。落ち着くどころじゃない事態。降ってくる瓦礫を避けながら、確かにその声を捉えた。


「こっちだ!はやく!」


 少し切羽詰まった、イスカの声。まだまだ信用ならないが、男の娘化のことを何か知っていそうな奴。リアルハネナーさんになっても、勉は親友なのだ、見捨てるわけにはいかない。


 声のした方に振り向くと、勉を小脇に抱えたイスカが、まだ崩れていない建物の上から手を伸ばしていた。一秒にも満たないが、ゲームでコンマの奪い合いをして来た俺にとっては、長すぎるほどの時間。走っていけばギリギリ飛べそうな距離だ。


 その時、イスカのパーカーの袖から、何かが…ワイヤーが伸びて来て、俺を絡め取った。巻きつく感じだと思ったが、違う。これ、どうなってんだ。すごい、みたことがないけれどスパイダーマンってこんな感じなんだろうか、と無駄なことを考える。


「よかった、キミも彼も無事だよ」


 ええ。今の何。メイドイ◯アビスのレ◯もびっくりの挙動。


「た、助かった。…何が起きた?あと今の何だ?その手首のやつ」


「ああ、コレはね。僕そのものなんだよ、つけてもらった」


 は?装備じゃなくて、体そのもの?つけてもらった?人造人間?

 口を開けて呆けていると、イスカが言った。


「とりあえずウチに来てくれるかい?」


 そういって、空間に手を捩じ込んだ。

 …イスカの手はどうなっているんだろう。ワイヤーが出て?もうだめだ、頭が痛い。


「えっと、それはなんだ? 勉も連れて行くよな?」


「もちろんさ。僕達⬛︎⬛︎⬛︎にはキミらが必要なんだ」


「今なんて?」


 聞き取れなかった、ノイズがかかったみたいに。例えば、音楽を聴いている時に、電波が悪くなって音声が乱れる、みたいな。舌が追いつかなかったとかじゃないだろう。

 疑問が表情に出ていたのか、イスカは俺が声に出さずとも、答えであろうことを教えてくれた。


「…ああ、キミはまだ選ばれていなんだね」


 元々電波さは感じてはいたが、ここまで来るとどうも不気味だ。でも、勉のためにもまずはこの危ない後者から抜け出さないといけない。


「で?ついてくるのかい?」


「…連れて行ってくれ。その、組織とやらに」


**


駄文ですが…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る