23. 覚醒! 震えるテスト室

 ――何、これ……?


 目の前に広がるのは荒野だった。

 確かにテスト室に入ったはずなのに、どう見ても屋外だ。


「驚いたー?」


 ルミナが得意げに笑う。


「……ここ、本当にテスト室なのか?」

「そだよー」


「空間圧縮?」

「ピンポーン! さすがリゼっち、理解が速いね」


「いや、ごめん。俺にはさっぱり……説明してくれる?」


 置いてけぼりは勘弁だ。


「簡単に言うと、空間圧縮を使って、すごく広い空間を部屋サイズにしてるの。街と同じ仕組みかな」

「なるほど……」

「街サイズはまだ無理だけどね。失われた技術ロストテクノロジーってやつ。術式の解析が難しくってさ」


 ふむ、理屈はわかった。

 真似できる気はしないけど。


「ルミナ……あとで術式、見せて。解析の手伝いできるかも」

「あ、ありがとリゼっち! 異世界の知識、期待してる!」


 ……ん?

 今、異世界って言ったか?


「リゼ……ルミナに話したのか?」

「うん。でも大丈夫。ルミナはいい人」

「もしかして秘密だった? ごめんねー。でも知識がすごすぎだよ」


 ……まあ、リゼが言うなら信じるか。


「じゃあ始めよっか。もう1人の異世界人くんの実力、見せてもらおうかな?」


 そう言うと、ルミナは弓のようなギアを取り出した。


輝く弧月ルミナス・アーク――ボクの相棒だよ。普通のギアと違って、ちょっと特別」

「特別?」

「見てて――」


 ルミナは空目掛けて光の矢を放つ。

 矢ははるか上空で弾け、無数の光となって放射状に降り注いだ。


 続けざまに前方の岩山へと矢を撃つ。

 先ほどとは違い、矢というよりは太く、光線みたいだ。

 光線はまっすぐ岩山に向かって進み、当たる寸前、鋭角に折れた。

 岩山を避けた光線はしばらく進んだ後、霧散した。


 なんだよ、あの軌道……チートか?


「……確かに凄いんだけど、何が違うのかはさっぱり」

「普通のギアはね、効率化のためにあらかじめ効果が刻まれてるの。でもこれは効果の術式が無いんだ。代わりに、イメージを効果の術式に変換する術式が使われてるの」

「……つまり、ルミナの矢は“撃つ瞬間の想像”次第で、性質も威力も変わるってことか?」

「そゆこと! すっごい燃費悪いけどね!」

「相当にマナ量が多くないと扱えないって感じだな」

「聞いたよー。アルカナでマナ量、褒められたんだって? ボクとどっちが多いのかな? 楽しみだなー」


 ルミナは楽しそうに笑う。

 どうやらとんでもない代物らしい。


「はい、じゃあたー坊の番!」


 ギアを受け取り、構えてみる。


「おー、似合う似合う! かっこいい!」


 ……照れるな。

 異世界こっちに来てこんなにポジティブに持ち上げられたことってなかったよな。

 無口、毒舌、ゆるふわ……どれも皆悪くない、けどこういうのも新鮮だな。


 ふと、マリアのことが頭をよぎる。

 ……ここで超パワーアップして、安心させてやるか。


「で、どうすれば?」

「まずは、コントロールからチェックするね。えーと、構えて、マナを込めてみて」

「……こう?」


 力を込め、弓を引くと、光の矢が現れる。


「そそ。じゃあ、目の前の矢がずっと細ーくなっていくのを想像してみて。髪の毛よりも、細ーく……」

 

 言われた通り、イメージしてみる。

 細く……、針に糸を通す、その光景が頭に浮かんだ。

 光の矢は小さくなっていき、豆粒ほどのサイズになった。


「おっけー。そのまま撃ってみて」


 引き絞った弓を開放する。

 矢が高速で飛び、その軌跡が光の線となって見える。


「おおー!」


 ルミナが拍手。

 

「初めてでこれって、センスあるよ!」

「いや、そんな……で、今のって役立つのか?」

「うん。例えば……もっともーっと小さくしたら、相手から見えなくなるし、それをいっぱい作って周りを囲んで攻撃したら避けられない……とか」

「……え、それルミナはできるの?」

「できるよー」


 はい、チート確定。

 俺の無双ハードル、上がりました。


「大丈夫? 緊張してる?」

「あ、いや、大丈夫。次のテスト、頼むよ」

「おっけー、じゃあ次は――」


「思いっきり、ぶっ放してみて」


「えっ……それだけ?」

「それだけ。ムカつく奴を思い浮かべて、思いっきり、『このやろー!』って、ね」

「……了解」


 こっちのほうがシンプルでやりやすい。

 ムカつく奴……浮かぶのはヴァイルの顔だ。

 セシルに心配させやがって……マリアを泣かせやがって……。


「クソがああぁ!」


 弓を引き切り、解放。

 矢は巨大な光柱となって荒野を貫いた。


 一拍遅れて轟音。

 足元が揺れる。


「……やべ、今の俺?」


「たー坊……」


 光の行く末を見ていたルミナが振り返る。

 衝撃で乱れた髪を意に介すことなく、目を輝かせている。


「すごい……すごいよ! あんなの、ボクでもできない! リゼっちの言うとおりだった」

「でしょ。颯太は凄い」


 どうやら俺、ほんとに凄いらしい。

 2人の反応を見て、俺の感覚は外れていなかったんだと安心した。

 この感じだと俺のポテンシャルは相当高いに違いない。

 

 頭の中で、自分専用のギアを振るう姿を思い描く。

 やっぱ剣かな……花形だし。


「これでテストは終わり?」

「終わりだよ。お疲れー! いやー、いいもの見せてもらったよ」


 引き返そうとしたとき、入り口の扉が開いた。

 セラさんだ。


「今の音……何があったの?」

「いやあ、ちょっと本気出しちゃいました」


 まだ余裕があるとアピールしてみせる。

 実際、体はピンピンしてる。


「テスト室……壊したらどうするの」


 ……えっ?


 セラさんが険しい表情をしていることに気づく。


 ルミナの方を見る。

 ばつが悪そうに舌を出し、視線を逸らした。


 「てへぺろ☆」

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