21. ギア選び。まさかのチート判定!?

 マジか……。


 転移ステーションを出た瞬間、目の前に広がる光景に息をのんだ。

 初めて訪れた技術都市――“フォルテリア”。


 高層ビル群は機械的で近未来的。

 そこまでは予想通りだった。

 だが、それらの建物は地上だけでなく、宙に浮かんでいた。


「マリアさんマリアさん」

「何よ」

「浮いてません? あれ」

「ああ、“反重力ギア”ね。……あんた、ほんとに異世界人なんだなって今実感したわ」


 この街では最先端のマナ研究が進められていて、新技術がどんどん実験投入されているらしい。

 宙に浮かぶ建物も、その一環。

 将来的な土地不足を見越しているのだとか。


 ……科学の力って、スゲー。


「で、どっちから行く?」


 俺には土地勘ゼロ。

 はぐれたら確実に迷子になる。

 ここは大人しくみんなに従うしかない。


「私はリュキアに行きますね。早めにギアの注文をしたいので」

「わたしもリュキア。会ってみたい人がいる」


 セシルとリゼはリュキアか。


「じゃあ俺も――」

「……あ、ちょっと待ってください」


 セシルが小さく手を上げ、困ったような顔をした。


「颯太さんは……マリアちゃんとアルカナに行ってもらえると助かります」

「急にどうした?」

「その……わけあって、アルカナは入りにくくて」


「よくわからないけど、そういうことなら……マリア、案内頼むよ」

「わかったわ。私はアルカナユーザーだし、場所も分かる。ついてきて」


 

 こうして俺はマリアと共にアルカナへ。

 セシルとリゼとは別行動だ。


「さっきのセシル、どういうこと?」


 道すがら聞いてみると、マリアは前を向いたまま答えた。


「……あの子がヴァンガードになったとき、アルカナから熱心な勧誘があったの。ヴァイル兄さんもアルカナユーザーだったし、妹だから当然期待されたわ」

「けど、あの子はそれを蹴ってリュキアと契約した。お父さんと同じね」


 なるほど。そういう事情か。

 ヴァイルは父親と違う選択をし、セシルは父親に倣った。

 ――その違いに何か意味があるんだろうか。


「気にすることないのに……妙なところで義理堅いのよね」

「確かに、セシルらしい」



 

「着いたわ。ここよ」


 黒を基調にした荘厳な建物がそびえ立っていた。

 近未来というより、クラシカルで重厚。


「……なんか緊張してきた」

「大丈夫。私たち客なんだから。堂々としてなさい」


 中へ入ると、黒を基調にした静謐な空間が広がっていた。

 壁にはエネルギーの流れを象った紋章が浮かび、無音のまま光を脈打っている。


「ようこそお越しくださいました、マリア=ハーヴィング様。その後ギアの調子はいかがでしょうか」

「最近久しぶりに使ったけど、悪くなかったわ」


 さすが顔パス。

 受付嬢の視線がすぐ俺へ向く。

 初心者っぽく見られたくなくて、きりっとした表情をしておいた。


「彼が、新しいギアを探しているの」

「ご紹介ありがとうございます。ハーヴィング様のご縁でしたら――」


 受付嬢は一礼し、柔らかく微笑む。


「最高のご提案をお約束いたします」


 丁寧な言葉にマリアが冷静に釘を刺す。


「でも、リュキアも見に行くつもりだから。最高の提案、期待してるわ」

「……かしこまりました。弊社を選んでいただけるよう、最善を尽くします」


 セールストークを置き去りにして、ドライに要求を突きつける。

 ……こいつ、商談とか連れてったらめちゃくちゃ役に立ちそうだな。


「では、マナの総量を測定させてください。こちらに手を」

 

 計測用の球に手をかざす。

 もう慣れた定番イベントに、妙な安心感があった。


 ……俺もすっかり異世界こっち慣れしたよな。


「マナの総量って、ギア選びに関係あるんですか?」

「はい。性能や出力によって消費するマナ量が大きく変動します。そのため総量と回復速度を測定し、最適なモデルをご提案する仕組みとなっております」


 なるほど。燃費悪いギアを選ぶと即ガス欠になるってことか。

 俺のマナ、どうなんだろうな……。

 無能者だし大したことないか。

 でも、リゼがすっからかんみたいだしそういうのと無関係なのかも。


 「……計測が完了いたしました。しばらく、あちらでお待ちください」


 マリアと向かい合ってソファに腰をかけた。

 ここに入ってから、マリアの様子が少し変だ。


「なあ……図書館でカイムと一緒にいた女の子ってさ……」


 マリアの視線が冷たく射抜く。

 思わず身構える。


「フィオナ=オルレアン。昔の同僚よ。ただ、それだけ」


 突き放すような言い方だった。

 けど彼女の目は「それ以上聞かないで」と訴えていた。


「彼女、女神への執着が凄かった。……崇拝と憎しみが、ぐちゃぐちゃに混ざってた」


 そう言って、マリアは深く目を閉じた。




「――大変お待たせいたしました」


 受付嬢の声で目を開ける。

 寝落ちしていたらしい。


「お客様の測定結果ですが……」


 結果発表を前に息をのむ。

 しょぼすぎて大したギアを用意できない、なんて言われたらどうしよう。


 「これまで観測したことがない規模でして……」


 ……え?


職人マイスターも仕様も、お客様のご希望通りに対応いたします。是非弊社にて」


 深々と頭を下げられた。


 マジか……異世界に来て、やっとこの展開!? ちょっと遅くない?


 胸が高鳴る。

 マリアを見ると、さすがの彼女も目を見開いていた。


「測定器の故障じゃない?」

「いえ、確認済みです」


 マリアは少し間を置いて言った。


「じゃあ、クロスタ博士を指名できる?」

「クロスタ博士?」

「アルカナ最高のマイスター。ヴァイル兄さんの灰の幻影グレイ・ミラージュを作った人よ」


 ヴァイルとお揃いか……ちょっと嫌だな。いや、これは嫉妬じゃないぞ。


「……クロスタ博士ですが――先日、退職されました」


「…………はぁぁあああ!?」


 才能を認められ、最高の職人に最強の武器を作ってもらう。

 憧れの展開は、一瞬で霧散した。

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