第三章:技術都市

20. ギア、作りに行こう

 目を覚ますと、部屋はすっかり明るくなっていた。

 全員そろってぐっすり眠っていて、女神を探さなきゃいけない――そんな緊張感はどこにもない。


 意外にも、最後まで寝ていたのはマリアだった。

 リゼに聞けば、俺の怪我を気にしてほとんど眠らなかったらしい。

 ……かわいいところ、あるじゃないか。




「で、どうすんの?」


 遅めの朝食を囲む中、マリアが寝坊を悪びれもせずに詰め寄ってくる。


「俺に聞くのか? でも、マリアにも考えがあるんじゃないのか?」

「もちろんあるわよ」


 即答だ。

 考えがあるのに俺に振ってくるあたり、試されてる気がする。


「セシルのお兄さん……ヴァイルが一度姿を消した場所って、わかるんだよな?」

「はい。調査隊の足跡は記録されていますから、座標も分かっています」


 セシルがトーストを齧りながら、さらっと答えた。


「なら、そこに行こう」

「理由を聞いてもいい?」

「ヴァイルはそこで消息を絶って、後にカイムの協力者として現れた。二人を結ぶ手がかりがあるかもしれない」


 マリアがセシルに視線をやる。

 2人は目を合わせ、こくりと頷いた。


「60点ってところね。考え自体は間違ってない。けど……」

「けどってなんだよ。他に何かあるのか?」


 否定された気がして、思わず声が荒くなる。


「前にも言ったけど、“外”は街のように安全じゃない。そこは魔物の世界。死がすぐ隣にある場所よ」

「それに、ヴァンガードが調査隊を組んで向かうほどの危険地帯。日数もかかるし、道中のリスクも高い」

「この4人で、今の戦力で本当に無事たどり着けるかしら?」


 ……“外”の危険性。知らない分、確かに甘く見ていたのかもしれない。

 でも、他にどうすれば――。


 悩んでいると、リゼが小さく手を挙げた。


「ギア……作りに行こう。颯太と、セシルの」


 マリアが満足げににやりと笑う。


「さすがリゼね。誰かさんとは頭の出来が違うわ。……セシルのギアは壊れてるし、颯太はライセンスだけでまだ持ってない。まずは戦力を整えないと」


「なるほど。でも最初からそう言ってくれれば――」

「甘えないで」


 それはいつもの軽口じゃなかった。

 背筋を正されるような、真剣なトーン。


「これから先、安全なんて保証はどこにもない。……もしかしたら、この中の誰かが命を落とすかもしれない」

「私やセシルがいなくなった時、自分で最善策を考えられる?」


 この中の誰かが――そんなこと考えたくない。

 でもつい先日、俺は死にかけた。

 不安にさせたのは、他でもない俺だ。


 マリアの言葉の背景を思うと、胸が締め付けられた。


「……ごめん」

「わかってくれたならいいの。私も言いすぎたわ」



「それで……ギアってどうやって手に入れるんだ? 街で売ってたりはしないよな」

「ヴァンガードの本部で取り寄せてもらうか、メーカーに直接頼む形になります」


 セシルが説明してくれる。

 さすがに物騒なものを街中で気軽に買えるわけがない。


「私の霧の妖精ミスティ・フェアリーは特注だから、メーカーに直接行こうと思います。颯太さんも一緒にどうです?」

「セシルと一緒なら喜んで! でも、メーカーって?」

「有名どころなら“リュキア”と“アルカナ”の二社です。私のギアはリュキア製。マリアちゃんの赤の鴉クリムゾン・レイヴンと兄さんの灰の幻影グレイ・ミラージュはアルカナ製です」


「クリムゾン・レイヴンって……マリア、お前ほんとに聖女か? 裏社会の二つ名みたいだぞ」

「失礼ね! 偏見よ!」


「マリアちゃん、兄さんとお揃いにしたかったんだよね」

「セシル!」


「マリアのギア……すごくかっこよかった」

「嬉しいけど……複雑!」


「あーもう、変な名前つけるんじゃなかった……。あの時の私、ほんとバカ」


 頭を抱えて赤くなるマリア。

 もっといじりたいけど、後が怖いからやめとこう。



「で、その2社ってどう違うんだ?」


「そこまで大きな差はありませんが……リュキアは万能型、アルカナは攻撃重視、といったところでしょうか。好みで選んでいいと思います。同じ街にありますし、両方行ってみましょう」

「同じ街?」

「はい。技術都市“フォルテリア”に」

「フォルテリアか……よし、じゃあ早速行こう」


 セシルと二人でギア作り。

 ……これはもうデートだな。


「……わたしも行く」


 えっ……?


「この世界の技術、図書館で読んだ。すごく興味深い。行ってみたい」


 リゼも来るのか。……この子、本当にガチのインテリだな。

 前も難しそうな本読んでたし。


「そうか。じゃあリゼも一緒に」


 落胆を見せないように、気丈に振る舞う。

 デートの夢は早々に潰えたけど……仕方ない。


「決まりね。じゃあ、準備ができたら出発しましょ」


 最後はやっぱり、マリアが締めた。

 結局、みんなで、か――。

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