第9話 シーフのバスター

「で、そこのおっさんを殺せば、僕は解放されるという認識で良い?」


「ああ、いいぜ、こいつ盗賊を1000人平気で殺せるそうだ。おめーは冒険者Aランクだっただろう、それなら相手になるだろう」


「あーはいはい、じゃあ鎖はずしてよ」


「そりゃー無理だ。ナイフは渡すが後は頼んだ」


「そうくるかーいいぜ」


 黒髪でぼさぼさの髪の毛をしているバスターと呼ばれた少年は。

 紺色のぼろぼろのマントを羽織りながら。


「じゃ、いくよ」


 ケンシンはゆっくりと立ち上がる。

 少年を見た時、何かを感じた。

 子供の頃の自分を見ているようだった。

 人に裏切られて、人を疑っているような目。

 人なんて信じてられるかと言う瞳だ。


 バスターが消えた。

 気付いた時には、天上に張り付いて、少年が落下してくる。

 ケンシンの頬をナイフがかすった。


 頬から血がツーと流れていく。

 酒場の床に全身を低く着地したバスターはそのまま真っ直ぐにこちらに向かって疾駆する。

 懐に入られて、そのまま腹を抉られると認識したケンシンは。

 足膝を曲げて、バスターの顎に命中させた。

 バスターが真横に吹き飛び、カウンターに衝突する。

  

 酒場のお客達が皆後ろに避難していく中で。

 リリィは気持ち悪そうにしており、エルは酔っぱらって、チャテは喧騒など気にせずお酒を飲み続ける。


 バスターが壁を足場にすると、そのまま壁を走り出す。


「お前は猫かなんかなのか」

「るせーよお兄さん」


 壁を疾駆しながら、ぐるりと酒場の周りを回転していく。

 そして何かが飛んできた。

 それはナイフだった。

 そこにはワイヤーが繋がれており。


 ナイフが少年の手元に戻ってくる。


 少年はナイフを掴むと。宙がえりをして、踵落としをケンシンの頭に落とす。

 ケンシンはそれを左手で払うと。体を真横に振って、足で横払いする。

 少年バスターはまた吹き飛ばされる。


「お兄さん、なんで剣を抜かないの?」


「ああ、君を殺すつもりはないよ」


「なんでだい? 僕はお兄さんを殺すつもりだけど」


「そうだな、お前が俺にそっくりだからだ」


「へぇ」


「お前何回も裏切られてるだろ」


「よくわかったね、ダンジョンボスの間で怪我をしてね、パーティーメンバーに追放されたんだけどさ、その時に奴隷として売られたんだよね、怪我して動けない事を良い事にね」


「そうか」


「奴隷から開放されるならなんだってする。それが高速シーフのバスターさ」


「じゃあ、俺が解放してやろう」


「お、殺してくれるのかい」


 ケンシンがロングソードを引きぬいた。

 その瞳に炎が宿る。

 バスターの表情が凍り付く。

 

「ひ、ひいいい」


 バスターが腰を落とした時。

 ずるりと見えない斬撃により、奴隷商人全員の首が落下する。


「ふぅ」



「あれ? 生きてる」


「これでお前は自由だなバスター」

 

「あれ、鎖もだ」


 バスターの両手を拘束していた鎖も切断されて分解されていた。


 その時、バスターのお腹が盛大に鳴った。


★ 


 眼の前で繰り広げられる食事。

 小柄なバスターのどこにそれが収納されているのかケンシンは関心しながら見ていた。

 肉、魚、野菜、デザート、パン、ありとあらゆる食べ物をかっここむバスター。


「お兄さん、僕を雇ってよ、こんな美味しい食事毎日食えるならお兄さんの所で働くよ」


「良いけど、俺の所にいると何回も死にかけるぞ」


「だいじぶだいじぶ、僕強いから」


「まずは食い終わってからだ、ガルもっと追加してくれ、金貨なら用意してある」


「あいよ、作らせてもらうぜ」


 リリィとエルとチャテは全員良い潰れて寝ている。

 とはいえ酒場のテーブルに突っ伏しているだけだが。


「さっきの奴隷商人達、ギムリーと手のものだろうな」


 ガルが呟く。


「だろうな、バスター何か知ってるか」


「僕は、新しいダンジョンで失敗した時に、大怪我を負って、そのまま奴隷になってたけど、僕には鷹の眼というスキルがあってねぇ、なんと一度見た人物を国規模で把握出来るんだよな、ギムリーだよ、奴隷商人と接触してるのは、正確にはギムリーの命令を受けた兵士だね」


「そうか、まぁ俺には関係ないのだがな、バスターキミを正式にパーティメンバーにしたい」


「お、まじか」


「そこのお姉さん達さ、もっと強いでしょ、ケンシンと同じくらいでしょ」


「まぁ、俺が鍛えたからな」


「すごいなーそうだ。冒険者ギルドに案内するよ、パーティーメンバ登録してなさそうだからさ」


「そんなものがあるのか」


「うん、パーティメンバー登録は最大で10名まで出来るから、行こうぜ今すぐに」


「ちと待ってくれ、3人を起こす」


「酔いつぶれてるんじゃないの?」


「起きろと命じると起きる。そういう関係だ」


「すごいなー」


 その時、リリィとエルとチャテが大きな瞳でむくりと起き上がった。


「ガル色々とありがとう、冒険者ギルドに行ってくる」


「おうよ、ケンシン、ここはお前のアジトみたいにしてくれ、いつでも待ってるぜ」


「ああ、助かる」



 ケンシン、バスター、リリィ、エル、チャテは立ち上がり、冒険者ギルドに向かった。



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