第1話:攻略開始──関係スキルツリーと“隣の美少女”」

 高校二年の夏。俺の人生は、“リアル恋愛ゲーム”になった。


 目の前に突然現れたステータス画面。それは妄想でも幻覚でもなく、バリバリの現実だった。


 《対象:天翔 星花(あまかけ せいか) 好感度:80/999》

 《関係スキルツリー:起動中》

 《巻き戻し権:1日1回使用可能》


 ──今も、俺の視界の隅にその文字が浮かんでいる。


 「……嘘だろ。好感度999中の80って、めっちゃ低くね?」


 確認するまでもなく、隣の席には学年一の美少女・天翔星花が座っている。

 顔面偏差値SSS、運動神経も学年トップ、頭もいい、性格も真面目……なのに、なぜか昔から俺とだけは普通に喋ってくれる幼なじみだ。


 だが彼女に好かれてる実感は一切ない。むしろ冷たい態度のほうが多い。


 (スキルツリーってなんなんだ……ゲームかよ……)


 俺は内心でツッコミながらも、スキルツリーの項目をそっと開いてみる。


 《分岐1:日常会話の頻度増加 → 好感度+5》

 《分岐2:一緒に下校する → 好感度+10(分岐1達成が条件)》

 《分岐3:悩み相談に乗る → 好感度+20(分岐2達成が条件)》

 《分岐4:挨拶を無視→好感度マイナス20》


 「おお……マジでゲームっぽい……」


 ギャルゲー+RPGって感じだな。


 そして“巻き戻し権”の項目も確認。


 《発動条件:その日一度だけ、任意の時間に戻れる》

 《注意:全てリセット。自分のみ記憶保持》


 (やば……これ、便利すぎる)


 とはいえ一日一回のみの制約がある以上慎重に動かなければ無駄になる。


 「これ本当だよな?」


 俺は未だ現実感がなく事実かどうか疑っていた。


 ──だがこれが、もし本物のスキルなら。

 俺でも、美少女を攻略できる可能性があるのでは?


 「おはよ、桐谷くん。……また眠そうな顔してる」


 天翔星花が、そっけない声で挨拶してくる。

 幼なじみなのに名字呼び。距離感がある現実が俺を刺す。

 まあ今の好感度なら当然か。

 でもそれでもその声に、ほんの少しだけ優しさを感じた気がした。


 (よし、まずは“日常会話”からだ)


 「お、おはよう……今日も、暑いな」


 「……あっついね。てかそれしか話すことないの?」


 「ご、ごめん……」


 (……クソ、やっぱ巻き戻した方がよかったか!? いや、まだだ。まだチャンスはある……!)


 俺は心の中で拳を握る。


 ──こうして俺の、“関係スキルツリー”を使った恋愛攻略が、静かに幕を開けた。

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