第2話 彼女、出逢い

 それは、瞬間的なものだったと思う。

 初めて目にしたのは、高校の廊下で一年生の夏だった。


 制服の肩口にかかった、夏風にそよぐ綺麗な黒髪。少し太めのキュートな眉と、透きとおった茶色い瞳。雪みたいに白くてきめ細やかな肌。クシャっと笑う小さな顔。


 彼女は、風に乗るように友達と歩き去っていった。


 名前もクラスも知らない彼女。ただ単に、学校の可愛い女の子とすれ違っただけ。


 これまでどおりの僕ならばそう考え、こんな出来事をつまらない日常に溶け込ませただろう。


 だけど、忘れられなかった。忘れることができなかった。


 だって、彼女が美しかったから。


 (あの子の美しさ以外を、知りたい。)


 気づけばそんなことを考えていた。


 臆病で根暗な僕は、機会を待つしかしなかった。廊下ですれ違うたびに、何度も話しかけようとはしたが、相手を想う自分が傷つくことを恐れ、勇気が出ないことを繰り返した。いつしか、すれ違うことに満足し、話しかけようとすらしなくなった。

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