後ろの席の瀬名川さん

蒼星絵夏

第1話 プロローグ

琢己たくみ、あんたそろそろ起きんと高校遅刻するよー」


 母さんが1階のリビングから咆哮するのが聞こえる。


「んンー。わかーってるって、うるさいなぁ、もぉ」


 時計を拾い上げると、7時37分のデジタル表示。

 うん、ギリギリ遅刻するペースだ。なんでこんな中途半端な時間に起こすかな、もっと早く起こしてくれよ。


 母親に起こされる情けなさに不貞腐れながら、ドンドンと音を立てて階段を下っていく。


「犬の散歩とエサ、やっといてよ。母さん、パート今行くからね」


「はいはい、いってら」


 いつもどおりの、慌ただしい朝。父さんが用意したチーズパンに齧り付きながら、インスタントコーヒーをひと飲みする。これで遅刻がほぼ確定した。


「ふぅ、やっぱ朝のコーヒーは落ち着くわ。……でも、学校、行かなきゃ」


 僕、前北琢己まえきた たくみはフツーの男子高校生だ。

 ただ、超ド級の面倒くさがり屋で、遅刻常習犯でもある。一言で性格を表せば、根暗。僕にぴったりの言葉だと思う。


『人生なんて同じことの繰り返し。』


 そう、思っていたんだ、彼女に出逢うまでは―。




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