第15話 王は今日も玉座にて
俺、浜順平は、最近小説家としての活動に忙しい。
いや、忙しいと言っても、物理的にはスマホをいじってるだけだが、精神的には壮大な王国を築いているのだから、これは立派な労働だ。
父は俺のことをよく「無職」だの「何もしていない」だのと勘違いしている。だが実際には、俺は日々、想像力と知性を駆使して物語を紡ぎ、読者の心を掴んでいるのだ。たとえ現実で俺を持ち上げる者がいなくても、俺の世界には、俺を称え、尽くし、利用されることを望む者が大勢いる。そういうものが“正しい人間関係”なのだと、俺は知っている。
最近書き始めたのは「オラと女神の成り上がり配信劇」。
主人公の土佑は、俺をモデルにしている。土佑は何もせずとも美女や仲間が集まり、敵は勝手に自滅し、財と名誉が雪崩のように転がり込む。現実を忠実に描いたつもりだが、なぜか周囲からは「ご都合主義」だの「幼稚だ」と言われる。理解力が足りない者には、俺の真意は見抜けないのだろう。
物語の中で土佑の妹は、表向きは辛辣だが内心では兄を尊敬している。これが本来あるべき家族の姿だ。現実の妹は俺に冷たい態度を取るが、それは彼女がまだ未熟だからだと俺は思っている。
父についても、土佑の父は息子に謝罪し、深く反省する。そういう場面を書くことで、俺は父に“気づき”を与えてやっている。だが現実の父は頑固で、なかなかその境地に達しない。
読者の中には、「なぜ土佑は何もしないのに皆が尽くすのか」と疑問を抱く者もいる。だが、それこそが王の特権であり、俺の生まれ持った権利だ。王が下々の者に頭を下げる必要はない。むしろ利用してやることこそ、王としての慈悲だ。
俺はAIを使って執筆することもある。効率化のための当然の手段だ。
父はそれを知って、唯一の長所が消えたなどと言っていたが、理解が浅い。王が自ら土を掘るか? しないだろう。王は命じ、成果を享受するものだ。
今日も俺は玉座――リビングのソファ――に腰掛け、スマホ片手に物語を操る。
「プシィッ!プシィッ!」
笑い声が漏れるのは仕方ない。だって俺の王国は、俺を中心に完璧に回っているのだから。
父が俺を見て何か言いたげだったが、まあいい。どうせ理解はできない。
現実がどうであれ、俺はこの世界で王だ。そして王は、王であり続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます