第10話 帰還と、勝利の寿司

ようやく帰って来た。いや、戻って来てやったと言うべきか。


俺はずっと耐えてきた。あの高木ってやつ、最初は「一緒に頑張りましょう」とか言ってたくせに、途中から俺の才能をちゃんと評価しなくなった。カメラの角度一つにしても俺の意見を無視してくるし、何より部屋の写真の件だって、アレは全部あいつがチェックを怠ったせいだ。


ああいうヤツらは、俺を利用するだけ利用して、責任は押し付けてくるんだ。ほんと、うんざりする。


それに比べて俺は誠実だったと思う。動画でも、ちゃんとファンに向けて語りかけていたし、視聴者に元気を与えていた。ああいう“表現者”が日本にはもっと必要なんだよ。再生数が伸びなかったのは、見る側のレベルが低かったからだ。センスのある人なら、俺の魅力を理解できるはずなのに。


俺のことを「オワコン」とか言ってきた連中、あいつら本当に見る目が無い。むしろ、俺が再び舞い戻って来たことで、YouTube界はまた震えることになる。そういう確信があった。


でも、正直に言えば…ちょっと疲れたのもある。女の代理人? あれも結局は口先だけ。優しくされたと思ったら急に態度が変わって、しかも部屋が狭いしWi-Fiも不安定。環境が悪いと、クリエイティブな発想も湧かない。だから帰って来ただけ。逃げたんじゃない。状況が悪かったから、合理的判断をしたまでだ。


それに、俺が帰って来るってことは、親孝行だと思う。俺がいないと、家も寂しかったろうし、母さんだって俺のことをずっと気にかけてたはずだ。帰った時、真っ先に味方してくれたのも母さんだったしな。やっぱり、俺にはファンがいる。


父さんは…まあ、相変わらずガミガミ言ってるけど、ああいうのは放っとけばいい。昔から口うるさくて、俺の才能もまったく理解してくれなかったし。実際、俺が動画で飯食ってた頃だって、あいつ何か助けてくれたか? 何もしてないくせに、偉そうに説教だけは一人前。


そんな父さんにひと言だけ返してやった。


「寿司、食べた」


そしたら何か黙り込んでたけど、あれで少しは俺の勝ちだって分かったんじゃないかな。


俺は、俺なりに戦ってきた。その戦果の一つが“寿司”だった。あの一皿一皿に、俺の苦労が詰まっていた。


だから、今は少しだけ休んでるだけ。いずれまた、活動は再開する。次こそバズる仕込みはできてるし、企画も考えてる。リスナーがどれだけ俺の復活を待ってるか、分かってない奴が多すぎる。


とにかく、今は静養だ。俺のような人間には、次のステージに向けた“準備期間”が必要なんだよ。


…ああ、そうだ。パンが食いたいな。あの甘いクリームのやつ。


ま、今日も一日、勝利ってことだな。

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