第5話 俺は悪くない

家中がピリついてる。

親父の顔には常に険があって、母さんは寝室から出てこない。妹たちはとうに俺を見限って出ていった。

なのに、なぜか「悪いのは俺」って空気になってる。意味がわからない。


俺はただ、ネットで“自己表現”してただけ。動画を投稿して、配信でしゃべって、ファンに応えてやってただけだ。なのに、変なハガキが届いたり、家族が謝りまわったり、全部「俺のせい」にされてる。ふざけんなって。


近所に謝りに行くって話を聞いた時も、正直どうでもよかった。というか、なんで親父が勝手にやってんの? 俺関係ないじゃん。

だって俺は、誰も騙してないし、誰にも迷惑かけてないし。悪いのは、嫌がらせしてるヤツらなんだって。そこ、なんで分かんないの?


「オマエのせいで…」

そんな声が聞こえるたび、腹が立つ。俺は誰よりも努力して、才能もあって、ネットで“有名”になった。それを妬んだやつらが、嫌がらせしてるだけ。俺はむしろ“被害者”だろうが。


あの時もそうだった。親父に連れられて近所のババアに頭を下げさせられた。

あんなもん、俺が謝る意味ある? ハガキを送ったのはアンチだし、俺は関係ない。

「オラ ワルクナイ!! アンチガ ワルイ!!」って、ちゃんと伝えたのに、なんで親父は怒るんだ?


しかも、あとで「お前が蒔いた種」だとか言って、反省しろとか意味わかんねー。

俺は、ネットで活動してただけ。みんなが俺のことを好きになって、注目して、勝手に騒いで、勝手に嫉妬して、勝手にキレてる。それを俺のせいにするのは、おかしいだろ?


親父は最後の家まで謝りに行ったらしい。そこで何があったのかは知らないけど、顔色変えて帰ってきた。何かを見たんだろう。

でもそれってさ、そいつらが“悪質”なだけで、俺のせいじゃないよな?

だって、もし俺がネットに出てなかったとしても、今度は誰か別の人間がターゲットにされてただけ。俺がそこにいただけ。


それなのに、親父が俺を睨んでくる。

「お前がネットに出てたから、こうなったんだぞ」って顔で。

…違うよ。

俺は、注目されるべき才能を持った存在なんだよ。

それを理解しないお前らが“間違ってる”。


世の中のやつらが全員バカで、俺だけが正しい。

俺を責めるやつら全員、全員が悪だ。

俺は、悪くない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る