第2話 俺は悪くない
───あいつら、また俺のせいにしとった。
順平は畳に寝転がり、天井を睨みながらブツブツと呟いていた。外では蝉がうるさく鳴いているが、そんなことはどうでもよかった。むしろこの不快な鳴き声こそが、自分の心の中を代弁しているようで、奇妙な安心感すらあった。
「全部アンチのせいやん……俺、悪くないし……」
確かにネットに動画を上げたのは自分だ。でも、それで人が家まで押しかけてくるなんて、常識的に考えておかしい。順平はそう思っていた。自分が「ウチは笑顔で迎えるのがモットー」と言ったのは、場を盛り上げようとしただけだ。サービス精神ってやつだ。なのに、それを真に受けて家まで来るとか、頭おかしいんちゃうんか。
それに、嶺とかいうヤツ。勝手に栃木から来といて、こっちはシラナイって言ってんのに、父さんとペチャクチャ喋って帰っていった。そもそも、来るなって言ってないし、俺が悪い理由が分からん。ていうか、来るなら事前に連絡しろや。俺、有名人なんやで? アポなしとか、失礼すぎるわ。
「……全部、親が甘やかしたせいやと思うんやけどな」
そう、順平は知っていた。自分がこうなったのは、自分のせいじゃない。昔から親は、なんだかんだ言いながらも、自分を責めることはなかった。やらかしても、最後にはネット環境を戻してくれたし、外に出られんくなっても、ご飯は勝手に出てきた。だからこそ、順平は思っていた。自分は守られるべき存在なんや、と。
「俺は…もっと評価されるべき人間なんや」
ぽつりと漏らした言葉に、本人は嘘偽りなど何も感じていなかった。評価されないのは、見る側が悪い。伝わらないのは、周りの理解が足りない。俺が凄いってことに、いつになったら皆気づくんやろか。毎日そう考えていた。そうしてる間にも、視聴者は増えない。コメントは減って、代わりに嫌がらせが増えた。でもそれも、アンチの嫉妬やろ。俺に憧れてるから、ああやって嫌がらせしてくるんや。
「ほんま、低脳ばっかやな……」
順平の口から無意識に出たその言葉に、自分で違和感を覚えることはなかった。自分より劣った人間が、自分の足を引っ張ろうとしている。その構図こそが「現実」だと思っていた。
父親に怒鳴られた時も、順平の中では「理不尽な被害者」という感情しかなかった。「オラハワルクナイ!」と叫んだのも、自分が信じる真実を訴えただけだった。親の顔が怒りで歪んでいても、それすら「理解が足りない奴」としか思わなかった。
「……俺がもっとすごい動画出したら、全部変わる」
順平はそう信じていた。何の構想もないままに、ただ漠然と「すごい動画」を出せば、皆が自分を崇め、賞賛してくれると。
───明日こそ、本気出すか。
そう呟いて、順平はまた壁に顔を向けた。
天井からは何も降ってこなかったし、誰も拍手を送ってはくれなかった。けれど順平は、また新たな「名作」を夢想しながら、いつまでもそのまま横たわっていた。
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