過去話(12)ありえたかもしれない未来『Phantom imagine film《1》Moka』
「今日は…最上級の妖が3体か。余裕だな」
(…やはりおかしい、俺の思考と
「よし、討伐終わりっと。さて、さっさと報告して百花のところに帰るか」
(!?場面が飛んだ、だと…どういうことだ、先ほどまでこれは討伐に向かっていたはず。そういう『ナニカ』なのか?それとも、ただの夢なのか…)
月夜は起こっている意味不明な状況を冷静に整理しようとするが、そんな暇は与えないと言わんばかりに場面が進んだ。
(今度は家の玄関、か?って、普通に百花が出てきたんだが。なんかありえんくらいニコニコしてるしやたら幸せそうなんだし…)
「ご飯にする?お風呂にする?それとも…わ・た・し♡?」
(これ、よりにもよって百花がやってんのきっつ)
「そうだな…お風呂にするよ」
(よく言った俺)
「はーい、もうお湯沸いてるから一緒に入ろ〜」
「ああ」
(ん?んんんんんん!?待て馬鹿やめろ!俺は百花の裸なんぞ見たくないんだが?見たくないんだが!?ていうか止めろよ!許可すんな!頭湧いてんのか!?)
この後、月夜は自分と百花がお風呂でいちゃついている映像、さらには風呂での情事シーンまで見せつけられ、 精神を磨耗するのだった。
**********
(俺ェ…何やってんだァ…?)
月夜にとって非常に精神衛生上とてもよろしくない映像を見せられたところで、場面は食卓になっていた。いつの間にか昼も飛び、夜になっている。
(なんとなく嫌な予感がするが…夜ってことはまた見せられるんじゃ…)
「月夜、はい、あーん」
「あーん」
(控えめに言って地獄なんだが?普通にやめて欲しいんだが?)
百花に対して抱いていないはずの恋愛感情。甘々な一時を過ごす自分と百花を見てると到底いい気分ではいられない。
「今日も美味いな、ありがとな、毎日毎日」
「ふっふーん、もっと感謝してもいいのよ?」
「本当にありがとう。何回も言うようで悪いんだが、本当に良かったのか?駆け落ちという形で」
「いいのいいの。お父さん一向に理解してくれないし。それに…家の柵とかない方がこうやって一緒に入れる時間も長くなるから」
(駆け落ち…つまりは俺も百花も雹牙にも土倉にも属しないフリーの陰陽師ってことか。それで最上級妖の依頼が来てるってことは相当実力が信用されているんだろうな)
「ね、ねえ月夜?明日は久々の休日だし、どこか一緒に遊びに行かない?」
「いいな、それ。どこに行く?」
「えっと、ね。夜は夏祭りがあるみたいだから一緒に花火が見たいの。だから昼はどこかテーマパークとか水族館とか行きたいんだけど…」
「そうだな…じゃあ昼は水族館行こうか。水族館の方がお互い落ち着いて過ごせると思うし」
「そうね、そうしましょ」
(やはりおかしい、俺は百花に恋愛感情なんて持っていないはず…なのに何故俺は百花と結婚している?わからない、なんなんだこれは。そもそも俺は何を見せられているんだ?存在する未来?俺が
「わぁ…ジンベエザメって大きいのね…!」
「そうだな。確か魚の中じゃ一番大きかったような」
「あれ?クジラって魚じゃないんだっけ?」
「クジラは哺乳類だったような…」
(水族館に移動してる…やはり、これは現実ではない映像的ナニカ。だがこれが単に俺が見ている夢なのか、それとも見せられている幻影なのか。はたまた、俺が知りようのない事象なのか。このことの判断ができればいいんだが…)
「あ、あれってクラゲじゃない?ちっちゃくて可愛い…」
「そうだな。こういう幻想的な風景は懐かしいな…あの頃を思い出す」
「あの頃…って言うと、異世界の?」
「そうだな。勇者一行のみんなで見たあの景色は最高だったよ。ただ、誰一人として欠けることがなければ気分も最高だったんだけどね…」
(!?欠けた、だと?つまり勇者一行に死者が出たということか?有り得ない、そう思いたい。あの中の誰かが死ぬなんて…ダメだ。そんなことがあったら、俺は家には帰れない、誓いすら守れない男が帰るなんてことは…)
「はい、しんみりした空気は終わり。ほら、楽しも?折角私と2人で来たんだし、他の人のこと考えてると、嫉妬しちゃうよ?」
百花はそう言って蠱惑的な笑みを浮かべ、月夜の手を掴んだ。
「ははは、そうだな。次、行こっか」
(!?なんだ?何故今俺は百花にドキッとした?恋愛感情?いや、ありえない。今までそれらしき感情も感覚もなかった。本当になんなんだ…わからない?何故わからない?観測すらできない、これはそもそも現実なのか?夢なのか?幻影なのか?未来なのか?それらよりも遥かに複雑な高次の何かなのか?考えれば考えるほど、わからなくなる…!)
「わぁ…綺麗…!」
「本当に、そうだな…!」
(アクアトンネル、だったか?確かに綺麗だな。だが、帝都ツァイトと比べたらあちらの方が格段に美しく、壮大に感じるが…)
《あ、あー、あー、聞こえるかい?君》
月夜が帝都ツァイトの景色の美しさを思い出していると、唐突に正体不明の声が聞こえてきて、月夜の目に映るそれは停止した。
(なんの声だ!?俺の声じゃない、これから聞こえる声でもない!?)
《おー、聞こえてるみたいだね。僕の名前はクロノア・クライシス。君、名前は?》
(…雹牙月夜だ)
《そんなに警戒しなくともいいさ。僕は君に危害を加えようってわけじゃないんだ。なんか変なところにいたから気になって話しかけてみたんだ。お気に召したかな?》
(………)
《無視だなんて酷いなあ。そうだ、少しだけ君の質問に答えてあげよう。僕が答えることのできるものは、ね》
(じゃあ聞こう。これはなんだ?)
《答えられないね。そのことについては世界自体への干渉行為として扱われるから禁止されている。自分で考えてくれ》
(…じゃあ現時点で聞くことはない。できたら呼ぶ)
《酷いなあ。少しくらい話は聞いてあげるのに。…おっと、妻が呼んでるみたいだ。また来るから、それまでに質問について考えておくんだね》
(考えてはおこう)
《んじゃ、一時的に止めてたけど再開するよ。じゃあね〜》
クロノアと名乗ったその男は、静かにその気配を消し、去っていったのだった。
「ねえ月夜。今度、私にも異世界の景色、見せて欲しいな」
「そう、だな。女神様から貰った術が完成したら一緒に行こうか」
(なるほど。この世界の俺は何かしらの理由があって異世界とここを行き来する術式を得ている、と。俺にはルミナリアという明確な理由があるが、この俺にはどういう理由があるんだ?)
「うん…月夜の仲間の人たちの墓参り、行かないとね」
「そう、だな。謝罪の暇もなく帰されたからな、ヴァルナンテ家…ルミナリアのご両親の元にも行く必要があるから、時間に暇があるタイミングで行かないと」
(…は?)
月夜の脳内は一気に混乱する。到底受け入れることはできなかった。知っていたはず。ルミナリアは全員の前に立って突っ走るような性格であることは。わかっていたはず。勇者一行という常に命が危険に晒される立場である以上、常に死ぬ可能性があることを。だが、月夜の脳は理解を拒んだ。陰陽師の家系に生まれ、命がなくなることに人一倍慣れているはずなのに。耐えられなかった。何故耐えられなかったのか、何に対して耐えきれなかったのか、まったくわからない。
(ルミナリアが、死んだ?)
ルミナリアが死んだ。その思考が月夜の脳内でこだまする。やけに心が苦しい。ルミナリアを守れていないこの世界の月夜に対しても怒りも湧く。月夜の脳内は様々な感情でぐちゃぐちゃになり、頭を掻きむしるのだった。
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