第二話 事情説明

「俺は正真正銘、親父の息子だよ。そうだな、俺と親父しか知らないようなことを言えばいいか?そうだな、俺が中学3年生の時に力加減を間違えて俺の肋骨を折って、慌てて治癒の陰陽術でなかったことにしたこととか」


凍哉はその言葉の直後に感じたのだ。自身の妻であり、二人の息子を溺愛している氷柱から冷たい空気が漏れ出ていることを。


「!?月ちゃん、一体何を言って…」


「貴方?あとでOHANASHIしましょうね?」


「お、おう。んんっ!とりあえず、月ちゃんが本人なのはわかった。次に聞くぞ、3年間月ちゃんは何をしていたんだい?いきなり行方不明になって、心配したんだぞ」


「んー、そうだな。説明が長くなるし面倒くさいから、とりあえず飯だけ食おうぜ。ご飯は俺が持ってるから」


この家の冷蔵庫の中身は空であることは3人はこの部屋を管理しているのだから当然知っている。だからこそ疑問に思った。


「この家、食材なんて何も置いてないわよ?でもあんたの分のオムレツが置いてあるってことは、食材を買ってきたのかしら?」


「ん?あー、そういやこっち・・・だと誰も使えないのか…あっち・・・でも使えるやつは珍しかったし。こういうことだよ」


月夜は1枚の霊符を顕現させて空間を歪ませると、そこに手を突っ込んで出来立てと変わらない状態のオムレツが出てきたのだ。


「はいよー、3人分。…食わないのか?」


凍哉は口を大きく開けて固まり、氷柱は大きく目を見開き、百花は頭に疑問符を浮かべて固まってしまった。そして月夜は思い出した。


「あー、そういやぁ、霊装顕現したのあっちでの出来事だったっけ」


混乱しながらもなんとか事態の収拾をつけようと、凍哉が口を開く。


「待て待て待て。1つずつ聞くぞ。まずその霊符はなんだ?」


「霊装」


「じゃあこのオムレツどっから取り出した?」


「亜空間」


「亜空間とは?」


「こういうものだ」


「真面目に答えてるのか?それ」


「一応真面目に答えてるぞ」


「そ、そうか…?」


「そうだぞ、冷めると悪いから食べようぜ。いただきます」


「「「い、いただきます…」」」


少し混乱しながらも手を合わせた3人は、ほぼ同時にオムレツを口に入れる。月夜もオムレツを口に入れ、頬を綻ばせる。


「美味いなぁ…やっぱこれだよ」


「美味い…美味すぎるぞ!?月ちゃん!これ作ったのは誰だ!」


「そうねー、是非料理を教えてもらいたいわね」


「美味しい…ただのオムレツのはずなのに美味しすぎる…」


3人はオムレツがあまりにも美味しかったために衝撃を受ける。月夜も最初にルミナリアが作った料理を食べた時はこんな感じだったなー、と思いながらも、凍哉の質問に答える。


「このオムレツを作ったのはルミナリアだな。俺の彼女」


「そうか、ルミナリアって人がこれを作ったのか、是非家で雇いたい…ん?彼女!?今彼女って言ったか!?」


「言ったぞ、それがどうしたんだ?」


「そうかそうか…遂に月ちゃんにも春が来たのか…氷柱…俺嬉しいよ…」


「あらあら、私もそう思うわ。月ちゃん、そのルミナリアって子はどこに住んでるんですか?」


「そうだな、説明が面倒くさいんだけど…今頃剣術の教師として学院で教鞭を取ってるんじゃないか?皇帝陛下と学院長に依頼…お願いされてたし。どこに住んでるかって話なら実家だと思うぞ」


「皇帝陛下?そんな人世界中探してもいないと思うのだけど…どこのお伽話の世界よ、そこ」


「詳しい説明は食事の後でな…って、今の話をしている間のどこにオムレツを食べ終わる時間があったんだよ」


月夜が話しているうちに、全員がオムレツを食べ終わっていたのだ。それなりの大きさをしているため、短時間で食べ終わるものではないのだが…いや、ずっと話し続けていたはずなのに気づいたらオムレツが消えている月夜が一番異常なのではないだろうか。


「いやー…ねぇ?美味すぎたもんで」


「おー、そりゃよかった。ルミナリアも喜ぶだろうぜ」


「月夜、おかわりない?もっと食べたい」


「亜空間の中に入ってる料理の数は有限だ。そんなポンポン与えられるかよ」


「ちぇー」


百花は余程オムレツが美味しかったのかおかわりを強請るが、取りつく島もなく拒否されてしまったため、可愛らしく口を尖らせるが、月夜はそんな百花を流しながら真剣な顔をする。


「じゃあそろそろ話しましょうかね、俺がこの3年間、何をしていたかを」


月夜は姿勢を正すと、口を開いた。

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