第一話 帰還
「全く…3年経ってるならそうだよな…まぁ死亡した扱いよりマシか」
月夜はふと時計を見た。3年も経っているというのに、不思議と動いているし、周りを見渡せば3年前とほぼ変わらない状態である。
「それにしても今日はクリスマス…の次の日、つまり俺の誕生日、か…」
月夜は霊符を一枚顕現させると空間を歪ませ、そこから熱々のオムレツを取り出した。
「こういう時はルミナリアが作ってくれたオムレツに限るよな。
そう言ってオムレツを食べようとした瞬間、呼び鈴が鳴った。3年も会っていないとはいえ、懐かしい霊力を感じたのだ。相も変わらずここに住んでいるのかとは思っていた。月夜の幼馴染でありマンションでの隣人。名は、
「久しぶり、だな。
土倉百花。陰陽名家の一つ、土倉家当主の弟の娘だ。しっかりとした声色で声をかけられた百花は声を張り上げた。
『あんた…!一体どれだけ心配したと…!』
「あ、ああ、悪かったな。今鍵開ける」
月夜が玄関へと向かって鍵を開けて、扉を押して開く。扉が開いた瞬間、目の前に拳が飛んできた。月夜はうわっ、という顔をして回避するが、目が潤んでいる状態でブチギレている百花に少しばかり罪悪感を感じた。
「も、百花?危なかったんですけど?」
「避けてんじゃないわよこのバカ夜ぁぁ!」
錯乱したかのように百花は拳を振り回し、月夜に襲いかかってきた。
「すまんすまん、ってか落ち着け。落ち着かないと話ができないんだが。だから落ち着けって」
月夜は百花の攻撃を手を使って柔軟に受け流しながら話しかける。しかし、止まることのない百花の攻撃に溜め息を吐くと、拳をパシッ、と受け止めた。百花はその事象に目を見開いて驚く。そして、顔をグイッと月夜に近づけて探るような視線を向ける。
「あんた前まで抵抗もできずぶっ飛ばされてたのに…」
「あー、なんだ、男子三日会わざれば刮目して見よって言うだろ?それだ」
「3日どころか3年じゃない」
「悪かったって。そんでもって1つ聞いていいか?」
「何よ?」
「顔、近いんだけど」
百花は拳を受け止められてから顔をグイグイと近づけてくるので、月夜の身長的に見下ろすような形ではあるが、百花の顔が月夜の目の前にあった。月夜は心に決めた人がいるためその方面に流されることはないが、もし月夜がそうでなかったのなら危うかっただろう。当然、それに気づいた百花は顔を赤くして月夜から距離を取る。
「わ、悪かったわね…」
「いや、別に構わないよ。あ、そうだそうだ、親父たちに連絡ってできるか?」
「はぁ?あんたのスマホでやりなさいよ。連絡先変わってないんだから」
「スマホ、粉々になって跡形も残ってないから」
月夜の言葉で、百花は完全に停止した。混乱するのも無理はない。確かに陰陽師は
「…はぁ?あんたスマホ粉々になるようなこと禁止されてるでしょうが。一体何をしていたのよ?」
そう、日常生活においてスマホが粉々になることなんてあり得ないのだ。故に、百花は月夜を怪訝そうな目で見る。
「別にやましいことをしてたわけじゃないぞ」
「信用するかはさておき、その言葉だけ頭に入れておくわね。あと凍哉さんに氷柱さん、後朝陽さんは毎年あんたの誕生日にこの部屋に来てくれてるわよ。今年は遠方の依頼のせいで朝陽は来ないみたいだけど」
百花の発言に対して月夜は目が点になる。
「は?もしかして…今日?」
その瞬間、再び呼び鈴が鳴った。カメラからは懐かしい顔が見えた。父親の凍哉と、母の氷柱が映っている。
「おっと…嘘だろう?面倒臭い予感しかしないんだが」
『百花ちゃーん。先に中入ってるでしょ?鍵開けてー』
「はいはーい」
百花は凍哉の声に速攻ですでに鍵が開いている扉を開く。ニヤッと百花は悪い笑みを浮かべ、その場から逃げようとした月夜の首根っこを掴んだ。掴まれた瞬間に逃げることを諦めて玄関の方を見る。
「久しぶりだね、百花ちゃん。そっちの男の子は一体誰…」
凍哉は百花から解放された月夜の顔を見て、一瞬にして固まった。それはもう、見事なほど綺麗に硬直した。
「げ、げげげげ…月げっちゃん!?」
「月ちゃんやめろ恥ずかしい…久しぶりだな、親父、母さん。と、とりあえず、中で話そうぜ…な?」
驚きすぎて完全に変人と化した凍哉と裏腹に、ただ目が笑っていない笑顔で見つめてくる氷柱の圧に少々、いやかなりビビるも、なんとか部屋の中に全員を押し込むことには成功し、アパートの他の住人からの苦情が来る前にその場は収まったのであった。月夜は食卓を囲むようにして三人を座らせた後、自分も座布団に腰掛ける。すると、すぐに凍哉の表情は硬くなり、真剣な面持ちで月夜に尋ねた。
「お前は本当に俺の息子の月夜なのか?」
と。当然、月夜の回答など決まりきっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます