第3話 木戸孝允の独り言③
まず、高杉のやつは俺をみて言うに違いないない。
「おい、桂さんよ!いつの間に木戸じゃと?何を隠しとるんじゃ、この腰抜けが!」
って、名前のことで早速絡みだすに決まっている。
…全く。ついこの前も、藩命で改名したと言ったろ?
龍馬も龍馬で、
「桂さん、なんでこんなとこでシュンとしてるがぜよ?もっとデーンと構えんと!」
って、ニコニコしながらも核心を突くようなことを言いそうだな。
あの男は本当、懐が深いというか、こんな俺とは正反対な男だったな。
……あのな。
俺はな。
普段は、慎重な性格だ。
後、自分で言うのも何だが、臆病と思っている。
なんでこんな俺に「薩長同盟」なんて大層な役割を持ってきたんだ、龍馬の奴は。
……他に適任者いただろ、絶対。
それにここは…。
嗚呼、鹿鳴館か。どおりで坂本やら高杉やらに引っ張られるわけだ。
もう、中岡も、高杉、龍馬も居ないはずなのにな。
「なんで木戸?」とか「なんでこんなところで外交しとるんじゃ?」って詰め寄るんだろうな。
きっと顔色一つ変えずに。
それでも内心では「ああ、またこの二人か…」って深い溜息をつく。
そんな自分が酷く惨めに映る、昼下がり。
そして俺は。
「…高杉、龍馬、ここは公の場じゃ。話は後じゃ…」
って、二人の勢いを何とか宥めようとするけど、二人は聞く耳持たず、鹿鳴館の隅っこに引きずり込んで根掘り葉掘り聞き出そうとするに違いないな……。
文明開化よりも先に命を散らせたお前達が、俺は、羨ましい。
乾乾(後の板垣)退助の場合。
乾(後の板垣)退助が鹿鳴館にいたら、まずその堂々とした風格で、周囲の注目を集めるだろうな。
…全く、こんな事を考える自分がどうかしている。
そして、騒がしい龍馬や高杉の方へ、ゆっくりと近づいていくだろう。
龍馬が俺を、いくら木戸に改名したと言っても
「桂さん、桂さん!」と呼びよせるのを見て近づくんだ。
「おお、龍馬!相変わらずじゃのう!桂殿も大変じゃな、はっはっは!」
と、豪快に笑い飛ばすに違いない。
彼(乾)は、そうだな。
坂本と、高杉…それから中岡の良いところを全部混ぜて、綺麗に3で割ったかの様な性格だったな。
高杉による、井上馨の昔のイギリス公使館焼き討ち暴露話を聞いたら、
「聞多も聞多じゃが、高杉も相変わらずじゃのう!だが、あの時の心意気は忘れるべからずじゃぞ!」
と、ニヤリとしながらも、どこか含蓄のある言葉をかけるんだ。
それぞれの立場を理解しつつも、乾退助という男は、若手ながらに、自分の意見はしっかり主張する奴だ。
俺の、出番はもうないだろう。
いい加減…外に出たい。
俺は、後ろ髪を引かれながら、鹿鳴館を後にした。
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