第2話 衝突する価値観

幸村が悠真の体に宿ってから、数日が経過した。しかし、二人の関係は、一向に改善の兆しを見せなかった。むしろ、衝突ばかりの日々だった。


悠真の意識と幸村の意識は、常にお互いを感じ取っている。幸村が口を開けば、悠真の脳内に直接声が響き渡る。悠真が何かを考えれば、幸村にも筒抜けだ。


「なぁ、幸村。今日の昼飯、何にする?学食の唐揚げ定食もいいけど、購買のパンも捨てがたいんだよなぁ」


悠真が一人でブツブツと呟くと、すぐに幸村の声が返ってくる。


『貴様、そんな些細なことで悩むとは、戦国の世では一瞬で命を落とすぞ』


「いやいや、命の危機に瀕してるわけじゃないんだから、好きなものくらい選ばせてくれよ」


『好き?戦とは常に死と隣り合わせ。好き嫌いなど言っておれば、腹を空かせたまま討ち死にするのがオチだ。与えられたものを食らい、生き延びる。それこそが兵の務めよ』


「現代は平和なんだって!飢え死にすることも、戦で死ぬこともないんだから!」


『平和……?貴様、この世が真に平和だと申すか?我にはそうは思えぬがな』


幸村は、現代社会のあらゆるものに疑問を呈した。満員電車、スマートフォン、コンビニエンスストア、自動販売機。彼の目には、どれもこれも奇妙で、不可解なものに映るようだった。


そして、その価値観の違いは、学校生活においても顕著に表れた。


授業中、悠真がボーっとしていると、幸村が「貴様、何をうつつを抜かしておる!己が知識を深めずして、いかにして世を渡り行くつもりか!」と叱咤する。体育の授業では、「その程度の鍛錬で、体がなまるではないか!もっと追い込め!」と鼓舞される。


悠真にとって、最も困惑したのは、幸村の「今すぐ行動しろ」という強迫観念だった。


ある日の放課後、悠真は図書室で勉強していた。すると、近くの席から、ひそひそと話し声が聞こえてくる。どうやら、クラスの女子生徒が、他のクラスの生徒から、悪口を言われているようだった。


悠真は、見て見ぬふりをしようとした。面倒なことには関わりたくない。それが、これまでの悠真の生き方だった。


『貴様、何を座しておる!困っている者がおるではないか!』


幸村の声が、悠真の頭に響く。


「いや、でも……あんなこと言ったって、僕が口出したところで、どうにもならないだろ」


『どうにもならぬと、誰が決めた?行動せずして、結果を望むとは、笑止千万!戦とは、常に不利な状況から覆すものよ!』


「戦とは違うだろ、これは!」


『何が違うのだ!己が信念を貫くためには、戦う覚悟が必要なのだ!』


悠真は頭を抱えた。幸村は、常に「戦」という視点から物事を捉えようとする。平和な現代社会では、その価値観はあまりにも異質すぎた。


悠真は結局、その場では何もできなかった。女子生徒たちは、傷ついた表情で図書室を後にした。悠真は、無力感に苛まれた。


『見よ、貴様の無様な姿を。助けたいと願う心を持ちながら、行動できぬとは、嘆かわしい!』


幸村の声が、悠真の胸に突き刺さった。


「うるさい……僕だって、助けたいと思ってるさ。でも、僕には力がないんだ……」


悠真は、声に出して幸村に訴えた。自分には、誰かを助けられるほどの勇気も、力も、何も持っていない。ただの平凡な高校生なのだ。


『力がない、だと?ならば、その力を得るために、行動せよ!そして、己がために、誰かのために、戦う覚悟を持て!』


幸村の言葉は、悠真の心に、小さな波紋を広げた。

そして、幸村の言葉に従って、力をつけるための行動を開始した。

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