【SF短編小説】星の歌を聴く燈台守 ~君の心の海を照らすまで~
藍埜佑(あいのたすく)
第一章 心の船を導く者
私の仕事は、彷徨える『心の船』を、導くこと。
私は、ミナ。
この星系連合では、特殊な
私には、人の心の奥底にある、言葉にならない「痛み」が、まるで嵐の海のように、直接、流れ込んでくる。喜びや安らぎといった穏やかな感情は、凪いだ水面のさざ波のようにしか感じられないのに、苦しみや憎しみ、そして絶望といった激しい感情は、防波堤を易々と乗り越える、巨大な津波となって私の精神を襲う。
人々は、私の能力を「奇跡」と呼び、癒やしを求めて、私の元へとやって来る。彼らは、私がただ側にいて、彼らの心に触れるだけで、その苦悩が和らぐと信じている。
実際、それはある程度まで、事実だった。私の意識が、彼らの荒れ狂う心の海に流れ込むことで、そのエネルギーが分散され、一時的な凪が訪れるのだ。
だが、私にとって、それは、祝福ではなかった。
絶えず流れ込んでくる、他人の苦しみの奔流。それは、私の魂を、少しずつ、確実に、蝕んでいく、呪いのようなものだった。
カウンセリングを終えるたび、私の心には、他人の痛みの残滓が、ヘドロのように蓄積していく。夜、一人でベッドに入っても、その日に流れ込んできた絶望の囁きが、耳から離れない。
だから、いつしか、私は自分の心を厚い壁で覆い、誰の心にも、深くは触れないようにしていた。
ただ、精神衛生局が定めたマニュアル通りのカウンセリングをこなし、業務として、彼らの心の嵐を、一時的に、凪がせるだけ。
共感はしても、同情はしない。
寄り添っても、決して、肩を貸しはしない。
それが、この呪われた能力と共に、正気で生き続けるための、私なりの処世術だった。
私の心は、長い年月をかけて、ゆっくりと、摩耗していた。かつては鮮やかだったはずの色彩は、くすんだモノクロームへと色褪せ、瑞々しかった感情は、乾いた砂漠のようにひび割れていた。他者の痛みを和らげる代わりに、私自身の心は、緩やかに死につつあった。
そんな、灰色の摩耗した日々の中で、私は、ある一人の『患者』と、出会うことになった。
その出会いが、私の、そして彼の、最後の航海の始まりになるとも知らずに。
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